2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J09905
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三浦 理紗子 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 自己組織化 / ナノゲル / ワクチン / 抗原デリバリー |
Outline of Annual Research Achievements |
親水性多糖へ疎水性基であるコレステリル基を部分的に導入した疎水化多糖は、水中で疎水的相互作用を駆動力にナノサイズのゲルを形成する。この自己組織化ナノゲルは、タンパク質の疎水的なドメインと相互作用して安定に内包するため、タンパク質デリバリーキャリアとして機能することが報告されている。本研究では、2種類の自己組織化ナノゲルとモデル抗原であるovalbumin(OVA)を複合化して免疫応答を評価し、ワクチンの開発を行ってきた。 用いたナノゲルはコレステリル基置換プルラン(CHP、コレステリル基置換率1.2/100単糖)とコレステリル基置換クラスターデキストリン(CH-CDex、コレステリル基置換率3.8/100単糖)の2種類である。CHPは直鎖状多糖を、CH-CDexは分岐状多糖を骨格としており後者はより高い糖鎖密度を有している。多糖の構造は粒子径に影響し、OVA/CHPは63 nm、OVA/CH-CDexは23 nmとCH-CDexの方が小粒子径を示した。ナノゲルワクチンの免疫活性化能を評価するためマウスへ投与したところ、キラーT細胞の活性化、抗体産生が確認された。免疫活性化の要であるリンパ節への抗原送達は粒子径に依存しており、小粒子径であるCH-CDexを用いた方が高効率であった。リンパ節内ではいずれのナノゲルワクチンも抗原提示細胞へ取り込まれており、クロスプレゼンテーション能を示す樹状細胞への取込が確認された。OVAを分泌するE.G7-OVA細胞を担持させたC57BL/6Jマウスへ投与し抗腫瘍効果を評価したところ、いずれも腫瘍縮退効果を示し、ワクチン非投与群と比較し生存率を向上させた。 以上の検討を通じ、2種類のナノゲルワクチンは免疫活性化能及び抗腫瘍効果を示し、粒子径に応じてリンパ節への抗原デリバリー効率やリンパ節内での局在が異なることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度はCHPとCH-CDexの2種類のナノゲルを用い、多糖構造の違いが及ぼす免疫活性化への影響をメインテーマとして検討した。in vitro、in vivoの検討を通じてMHC class I, II双方へ抗原提示可能なことやリンパ節内での抗原分布が異なることを明らかにした。また、いずれのナノゲルワクチンも腫瘍縮退効果を示し、治療ワクチンとして機能することが示唆された。細胞との相互作用から、誘導される免疫活性、及びその結果としての抗腫瘍効果まで、多岐にわたる評価を行うことが出来た。これらの成果を元に現在論文執筆中であり、順調な経過であると考えている。 上記の系の傍らで新規ナノゲルワクチンの構想及び開発を進めてきた。具体的には、免疫細胞との相互作用を向上させるためにCHPへアニオン性官能基であるカルボン酸の導入を試みた。既にカルボン酸修飾CHP (CHPCOOH) の合成を終え、及び免疫活性化能の評価を開始している。上記の系の検討を通じて基本的な免疫評価手技を修得しているため、CHPCOOHの系において同様に検討することで電荷が及ぼす免疫活性化への影響を検討することが可能である。 以上のように、現在進行中の研究テーマの遂行及び今後検討するテーマへの移行を行い、目標通りの進捗を得ること出来たと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
ナノゲルワクチンの展開として、負電荷を帯びたナノゲル、CHPCOOHを抗原キャリアとして用い、負電荷が及ぼす免疫活性化能への影響を評価する。抗原提示細胞である樹状細胞やマクロファージには負電荷を帯びた高分子をリガンドとするスカベンジャーレセプターが発現していることが報告されている。そこで、スカベンジャーレセプターのリガンドとなる抗原キャリアを開発すると抗原提示細胞を標的化し、効率的な抗原提示及び免疫活性化が誘導可能となると予想される。 現在、COOHの修飾率が異なる2種類のCHPCOOHを合成しており、COOHの修飾率に応じて表面電位が負に変化することが示された。また、CHPCOOHはCHP同様OVAを内包可能であるため、抗原デリバリーへ応用である。今後はCHPCOOHのスカベンジャーレセプターの標的化を確認し、続いて免疫活性化能の評価する予定である。 上記のように電荷による免疫活性化への影響を評価した後、更なる展開として免疫療法の併用を予定している。免疫活性化経路は一方向ではなく複雑系であり、複数経路から免疫活性化を誘導することでより強い効果が得られることが報告されている。ナノゲルワクチンにおいても併用が効果的であると考えられ、例えば免疫活性化シグナルを刺激や免疫チェックポイント抗体との組み合わせを想定している。今後はナノゲルワクチンとは異なる経路から免疫を活性化する材料の開発も並行して進める予定である。
|
Research Products
(5 results)