2017 Fiscal Year Annual Research Report
コミュニティ防災の国際比較研究~日本の地区防災と中国の社区防災~
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17J09978
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
金 思穎 専修大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 地区防災計画 / コミュニティ / 熊本地震 / 九州北部豪雨 / 北九州市 / 半構造化面接法 / SCAT / 地域社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度の研究実績としては、11本の学術研究論文(うち査読論文1本)、9本の学会発表、1冊の図書(単行本)がある。これらは、研究実施計画にしたがって、大きく①地域社会学における国内外の地域コミュニティの基層組織についての文献調査に基づく研究実績と、②日中の地域コミュニティの住民・行政官へのインタビュー調査に基づく研究実績に分けることができる。 主なものをあげると①については、熊本地震を踏まえた地域コミュニティの防災活動について海外向けに紹介する中で、町内会等の地域社会学的な地域コミュニティの基層組織の在り方について考察を行った『福岡大学法学論叢』223号に掲載された論文(Nishizawa, Jin, 2017 “, A Study of the Kumamoto Earthquake and Disaster Prevention 4.0”)や国内外の伝統的な地域コミュニティの基層組織の歴史を踏まえつつ、災害対策の観点から、その現代的な変容について考察を行った日本社会学会第90回大会報告「地域社会学的災害研究から見た熊本地震と地区防災計画」等をあげることができる。 また、②については、日本国内のコミュニティについては、『専修人間科学論集社会学編』8巻2号に掲載された北九州市小倉南区志井校区の地区防災計画づくりに関する査読論文(金, 2018, 「北九州市の地区防災計画に関する地域社会学的研究――半構造化面接法によるインタビュー調査及びSCATによる質的データ分析――」)をあげることができる。また、海外関係では、中国の地域コミュニティである社区の防災計画づくりの地域社会学的な意味について考察を行った単著(金思穎, 2017, 『日中のコミュニティにおける防災活動の実証的比較研究』地区防災計画学会)をあげることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は日中のコミュニティの共助による防災活動の役割を地域社会学的に分析するものであり、2年間で、日中両国の①町内会等の一般的なコミュニティの防災活動に対する調査、②企業(法人)等多様な主体と連携したコミュニティの防災活動に関する調査、③ICTを活用したコミュニティの防災活動に関する調査を予定している。 初年度(29年度)は、本研究全体に係る地域社会学的な基礎的な文献の渉猟を行い、学会報告・論文発表を行ったほか(研究実績①参照)、①に係る一般的なコミュニティに関する調査として、福岡県北九州市小倉南区志井校区、熊本県熊本市中央区砂取校区、中国重慶市銅梁県等で半構造化面接法に基づくインタビュー調査(質的調査)を地域住民や担当行政官等を対象に実施し、比較的新しいテキストデータの分析法であるSCAT(Steps for Coding and Theorization) を利用してテキスト分析を行い、学会報告・発表を行っており(研究実績②参照)、当初予定よりも多くの地域を対象に研究が進行中であるほか、学会報告や論文発表数も当初の予定を上回っている(29年度研究実績は、11本の学術研究論文(うち査読論文1本)、9本の学会発表、1冊の図書(単行本))。 そして、1970年代以降に町内会のつながりを中心に展開されてきた自主防災組織における防災活動やコミュニティ活動に関する伝統的な地域社会学における先行研究を渉猟しつつ、地区防災計画づくりでは、都市計画における地区計画づくりと同じように、計画の対象範囲を地域住民等が自ら設定できるという特色があり、その特色をいかして、地域性と共通の関心(価値観、習慣等)を持つ住民が集まって防災活動に関する合意を行うきっかけとなっていることを明らかにした。 以上から、本研究は、初年度終了時点で、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度(平成30年度)は、前年度の研究結果を踏まえつつ、地区防災計画づくりを実施している地域コミュニティでインタビュー調査を実施し、現在の地域コミュニティの防災活動について、都市型、住商混在型、郊外型、農村型等に類型化して分析を行う。また、上記②の観点から、企業(法人)等多様な主体との連携が行われている神奈川県よこすか海辺ニュータウンの企業(法人)等多様な主体の関係者と中国四川省成都市又は重慶市の商業地区の社区の関係者に対してインタビュー調査を実施し、企業(法人)等の多様な主体と地域コミュニティの連携によるコミュニティ防災の可能性について考察を行う。また、③の観点から、ICT(情報通信技術)の積極的な活用が行われている熊本市等のICTを活用した被災地区の住民や中国重慶市等のICT活用社区の住民に対してインタビュー調査を行い、進歩の著しいICTを活用したコミュニティ防災の現状と課題、ICT活用の利点、ICTを活用する上での住民の問題点、ICTリテラシーの向上の工夫、ICT設備への投資の問題等を明らかにする。なお、インタビュー調査の分析に当たっては、新しいテキスト分析の手法である共起ネットワーク分析やSCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いることとし、その調査方法論について、伝統的なテキスト分析手法であるKJ法やGTA(Grounded Theory Approach)とも比較しつつ、検討を行う。 なお、これらの研究の成果については、信山社及び九州大学出版会から30年度内に出版予定であるほか、日本社会学会、地域社会学会、関東社会学会、関東都市学会、地区防災計画学会等での報告・論文掲載が予定されている。
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