2017 Fiscal Year Annual Research Report
「市井の学」にみる趣味と研究の歴史社会学:近代日本におけるアカデミズムと逸脱者
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17J09983
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
大尾 侑子 学習院大学, 法学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アカデミズム / 趣味 / 市井 / メディア史 / 歴史社会学 / 発禁本 / 同人雑誌 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、著書(「『復刻「談奇党」・「猟奇資料」(叢書エログロナンセンスシリーズ 第Ⅳ期)』ゆまに書房、2017年12月刊行)で戦前発禁書物の年表を作成し、また学会発表(日本社会学会、日本近代文学会)を行い世間に問題提起をした。 また査読論文(「「非人情な結束」としての「自費出版同盟」にみる〈社会運動〉構想―1920年代の雑誌『文党』のマニフェスト分析から―」関東社会学会 『年報社会学論集』第30号pp.122-133)では本研究の根幹であるテーマ(アカデミズムの外部の知的ネットワークのメディア史)について成果を公表した。 この論文では、社会運動を志向する文学が活発化した大正末期から昭和初期にかけて、作品の「内容」ではなく組織運営の「形態」によって運動を成そうとした雑誌に着目し、それがいかなる意味において〈社会運動〉であったのか、その内在的な論理を解読することを試みた。そこで1925年から1926年にかけて刊行された雑誌『文党』のマニフェスト分析を行い、つぎの知見を得た。 第一に、『文党』が提唱した「非人情な結束」とは、文芸趣味の同質性による結束がもたらす排除(文壇や同人雑誌)を回避し、社会的包摂をめざすコンセプトであった。第二に「自費出版同盟」とは、著者と読者の直接取引を実現することによって、資本家(出版者)による搾取を回避する経済的相互扶助のシステムであった。つまり出版資本主義が確立し商業主義化する文壇の権威を前に、雑誌というメディアを産業組合実現の場として位置づけ「社会運動」を達成しようというメディア論的想像力が存在したということである。 これらの成果にくわえ、同時並行して東アジア研究のプロジェクトに参加しているほか、近代文学研究者とともにカストリ雑誌に関する研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は日本国内のネットワークについて研究する予定であったが、資料収集のなかで東アジア圏のネットワークが確認できた。そのため対象の空間設定を拡張し、より広い視野で国際的な研究ができたと考える。以上から当初の計画以上に進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は博士論文として成果をまとめ、それを書籍化して社会に公表することを目指す。年表作成をゆまに書房の協力で行うことができたが、今後はこの関連年表についてもより情報を増やし、後学に資するものとしたいと考えている。本年度は日本近代文学会で発表するほかカストリ雑誌関(戦後のネットワーク)も視野に入れて研究を行う予定である。
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Research Products
(5 results)