2017 Fiscal Year Annual Research Report
反応経路解析を応用した超解像イメージングプローブ開発法の確立
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17J10083
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橘 椋 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 超解像イメージング / 反応経路解析 / 蛍光プローブ / 計算化学 / 分子設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は自発的に明滅する蛍光色素を用いたSMLMによる超解像イメージングを行うために要求されるHMR類の分子内環化反応に関する熱力学パラメータの予測を目指し、分子内反応のモデル化・計算化学による反応経路解析を行った。蛍光プローブにおいて柔軟な調節が求められる特性としては「①ある時点で系中に存在する色素のうち蛍光性状態でいるものの割合」「②蛍光性状態の持続時間」が重要であること、また①はすでに報告者により計算化学による予測法が確立されていることを申請時に述べた。そこで本年度は②の予測を達成すべく、分子内スピロ環化反応の精査を行った。
HMR類の蛍光性状態の持続時間にはpH依存性があることが知られており、これを理論的に再現するためには異なるイオン種が関与する複数の反応経路をモデルに入れ込む必要がある。既に得られている実験データ等を参考に、非pH依存性A反応とpHイオン性B反応の重ね合わせを考え、これらの速度定数をpHに応じて重みづけ平均とすることでpHに応じた見掛けの反応速度を説明するための式を考案した。その後、両反応において正確な活性化自由エネルギーを算出するために必要な計算条件の検討を行った。結果、現在参照可能な実験データの範疇ではあるが、A・B反応それぞれにおいて最適な条件を見出した。これと併せて種々の誘導体を合成し、レーザーフラッシュフォトリシスによる過渡吸収測定法により速度定数の実測を行った。計算化学による分子内環化反応の予測値は生理的pH付近において極めて良い一致を示し、考案した計算法を用いて実際に超解像イメージングに適切な分子設計を行えることが示唆された。 このように計算化学を用いて生理的条件で進行する反応を直接的に設計していく試みはほとんど類を見ないと言ってよく、化学という観点から生命現象を解き明かしていく次世代の研究にとって大きな寄与をすると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたようにHMR誘導体のスピロ環化反応速度を計算化学から正確に予測する方法を見出した。現在の予測モデルは簡素なものを用いており、新規誘導体の環化特性を調べるなどしてさらに改良を加える余地はあるものの、実際に蛍光プローブ設計に用いることのできる精度を有していると判断できる。開発した反応解析手法は、超解像イメージングプローブにとどまらず分子内・分子間反応の解析法として広く適用可能であるため、他の生物実験ツールの開発に応用する余地があるとも期待できる。 この結果に加え、計画段階では想定していなかったが、HMR誘導体に新たな分子内反応を設計し、既存の分子内スピロ環化反応と競合させることでより多様な分子設計を可能とする方法を考案した。具体的には、分子内スピロ環化における求核性官能基であるハイドロキシメチル基のもう一方のオルト位に求電子性官能基を導入することで、新たにそちらとの環化反応も起こるような分子設計とした。 計算化学により速度定数を予測し、既存の分子内スピロ環化反応と比較して十分な速度で新たな環化反応が起こる官能基を探索し、適切な官能基をいくつか見出した。予想した速度定数を用いて速度式を立て、簡単な数値シミュレーションを行って蛍光特性を再現したところ、既存のHMR誘導体とは異なるpH依存性が予想されたほか、構造展開によって超解像プローブに関わる熱力学パラメータを柔軟に調節できる可能性が示唆された。初期検討のための化合物の合成法についても確立し、実際にこれらのスピロ環化特性が既存の誘導体と異なることを実験的にも確認した。このように、計画当初は想定していなかった新たな分子設計戦略の基礎となる化学反応の設計にも着手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は申請時の計画通り超解像イメージングプローブに求められる熱力学的パラメータを予測する方法をさらに改良しつつ、これを応用して実際の分子設計を試みる。初年度で得られた反応モデルを踏まえ様々な誘導体をさらに計算によって定量的に解析し、超解像イメージングプローブに求められる蛍光の持続時間の調節や蛍光明滅の制御能を実現するためにどのような構造展開を行えばよいかについて具体的な指針を得る。こうして得た情報を活用し、実際の実験系をいくつか想定し、これらの実験条件や蛍光標識の対象に合わせプローブの特性を最適化し蛍光明滅の制御能を付与した新規超解像プローブを設計・合成する。生細胞イメージングへの応用を視野に入れ、合成した超解像プローブを用いた簡易的な実験系(固定細胞など)における超解像画像の取得、および蛍光の明滅機能の制御が設計通りに機能するかを検証する。蛍光特性の予測法確立に向けてHMR類の性質に留まらず、タンパク質との相互作用などを含めた幅広い試算を行う必要があると考えている。特に、合成した超解像プローブを生細胞内環境で用いた場合の蛍光特性が緩衝液中など細胞の成分を排した環境での挙動からどの程度変化するかについて新たにモデルを立て、実測値・計算結果の対応を調べることで予測可能性を検討する予定である。
また、新たな分子設計戦略においても様々な誘導体を合成し、実際の挙動が理論化学を応用したシミュレーションによりどの程度予測可能かを検討することで、この機構を用いた全く新しい蛍光プローブ設計戦略の確立を目指す。現在の実験データからも従来の誘導体とは異なる分子内反応特性・その他の物理化学的特性(環境感受性等)が認められているため、従来の枠組みにとらわれずに幅広く色素の性質を精査していこうと考えている。
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Research Products
(4 results)