2018 Fiscal Year Annual Research Report
反応経路解析を応用した超解像イメージングプローブ開発法の確立
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17J10083
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橘 椋 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 蛍光プローブ / 超解像イメージング / 量子計算化学 / 反応速度論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では、まず初めに初年度で考案したHMR類の分子内環化反応速度の予測法の改良を行った。モデル化合物をいくつか合成し、レーザーパルスによる過渡吸収測定から色素の蛍光性状態の持続時間を実測し計算から求めた値と比較を行い、この情報をもとに量子化学計算の条件(汎関数、基底関数)についてさらなる最適化を行い、計算コストを増大させることなくより精密な計算結果を返す条件を見出した。さらに、溶媒としての水分子の水素結合による効果もさらに見直した。新しく最適化した計算方法では、より広範な誘導体に対して実測値に近い計算結果が得られることが分かった。 次に考案した計算手法を用いて未知の誘導体の蛍光明滅特性を予測することで、これまでに開発の難しかった新規超解像イメージングプローブの開発を行った。具体的には、これまで明滅特性の最適化が困難であった蛍光団を用いて、これまでは赤色蛍光でしか行うことのできなかったHMR類による超解像イメージングを黄色・緑色でも可能とすることを目指した。黄色・緑色蛍光を有するHMR類に対して様々な置換基を導入した誘導体の蛍光明滅特性を計算し、超解像イメージングにおいて適切であると考えられる性質が予想される構造をそれぞれについて見出した。このうち黄色蛍光を有するものについては合成及びタグタンパク質へのラベル化を用いた生細胞超解像イメージングに成功した。緑色蛍光を有するものについても現在合成検討を進めており、完成後速やかにイメージング実験を行う予定である。 この他にも、より蛍光量子収率が高く光褪色に強い色素等、イメージングに有用だがこれまで適切な明滅特性を持つ誘導体の探索が困難であった色素骨格に対して適切な構造を探索することで、トライアンドエラーによる検討を必要とせずに有用な超解像イメージングプローブを設計することを可能としたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
採用当初での計画通り、初年度に考案した蛍光プローブの理論的設計法をより高精度なものに改良するとともに、これを応用してこれまでに開発の困難であった超解像イメージングプローブの設計・合成を行い、その一部については実際に生細胞における超解像イメージングに成功した。また、最終年度における「細胞系への応用・SMLMに基づく超解像イメージングにおけるスタンダードとなる技術への大成」という目標を見据え、合成した超解像プローブを生細胞内環境で用いた場合の蛍光特性が、緩衝液中など細胞の成分を排した環境での挙動からどの程度変化するかについて評価するための準備に着手した。具体的には、色素がタンパク質に包まれることによって受ける環境の変化(周辺水分子の排除、アミノ酸の電荷によるクーロン相互作用)を定量的に見積もることを目指し、3次元線型化ポアソン=ボルツマン方程式の数値解を求めるプログラムの開発を行った。これをこれまでの量子化学計算による予測と組み合わせて利用することで量子化学での扱いが難しい大規模系での予測の一助となると考えている。 このように本年度の目標の達成に加え、次年度の目標に対しての解決策となりうる方法の考案・実装にまで至ったことから、進捗は当初の計画以上に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに確立した計算化学によるプローブ設計法を駆使し、生細胞超解像イメージングに適用可能な新規イメージングプローブを目的ごとに応じて設計し、実際に合成する。具体的な新規プローブの設計指針としては「これまでのプローブを用いては困難であったイメージングを達成する」ことを目標とし、既存プローブには無い波長域でのイメージングや、より褪色に強く蛍光の強い蛍光団を用いた長時間イメージングなどを試みる予定である。それぞれの目的に対して候補となる構造は複数挙げられることが予想されるが、合成難易度等を元に優先順位を明確にしたうえで可能であれば複数種合成し、既存の明滅特性では説明しきれない機能の差が生じるか否かについても検討したいと考えている。 これらを生細胞に導入し、生理的条件下(強いレーザー光照射や添加剤を用いない条件下)において設計通りの蛍光明滅制御が機能し、超解像画像を取得できるか検討する。さらにプローブをより多様な系に応用することで、ラベル化密度やイメージングスピードの上昇に対応したプローブ設計法、タグタンパク質の認識部位を組み込んだプローブの設計法を確立する。とくに後者の目標に対しては、新たにタンパク質近傍の環境が蛍光プローブへと与える影響を評価するプログラムの開発をさらに進め、定量的な議論を元に細胞内での非特異的吸着などオフターゲットからのシグナルを減弱した超解像イメージングプローブの開発等に繋げることを考えている。 こうした方法論が首尾よく完成された場合は、予測法の化合物種としての適用範囲をHMR類から他の蛍光分子に広げることも試み、より普遍的な方法論の構築を目指す。
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Research Products
(3 results)