2018 Fiscal Year Annual Research Report
体調変化とデータ欠損にロバストな無拘束型睡眠段階推定と個人化による精度向上
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17J10128
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
田島 友祐 電気通信大学, 情報理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 睡眠段階推定 / 無拘束 / 心拍 / 体動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,睡眠障害の治療ならびに予防の診断のために,拘束性の高い器具の装着と専門医師による診断が必要不可欠である従来の方法から,無拘束状態で取得可能な生体データ(心拍・体動・呼吸)に周波数解析を基にした推定法を用いることにより,専門医師による診断を不要とする睡眠段階推定手法の実用化に取り組む.この目標達成のため,(i) 従来の心拍だけの推定ではなく,複数の生体データを用いることによる睡眠段階推定精度の向上,(ii) 個人の日々の体調変化や被験者によって推定精度が減少しないロバストな推定法の確立,(iii) 就寝直後のような取得される生体データの少ない,短い時間における推定法の確立,(ⅳ) 寝返りやトイレなどによる生体データ欠損時における,生体データの近似的な補完方法の確立,の4つのサブテーマに取り組む.第2年度目の研究計画では,(ⅳ)ならびに更なる精度向上を目的として(i)に取り組んだ.(ⅳ) では,前後のデータから欠損区間のデータを線形的に補完する方法をとり,睡眠段階推定した.短時間のデータ欠損であれば推定精度は変化しなかったが,長時間のデータ欠損ではレム睡眠の期間を推定することが出来ず精度が悪化してしまった.(i) では,人間が持つ約90分周期の体内リズムの一つである,ウルトラディアンリズムを考慮し,異なる周期毎に推定をすることでより高精度の推定を実現させた.この研究成果は国内学会であるヘルスケア・医療情報通信技術研究会にて口頭発表した.また,本課題を生体データの波形データから周期性の変化を捉えることと捉え,The Genetic and Evolutionary Computation Conference 2018に参加し,数理的観点だけでなく多様なアプローチに関しての議論ならびに意見を頂いた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2年度目の研究計画では,無拘束かつ専門知識を必要としない睡眠段階推定法の確立に向けて,4つのサブテーマのうち(ⅳ)ならびに初年度に取り組んだ(i)に対して更なる精度向上を目的として取り組んだ.(ⅳ)では,(a) 寝返りやデータ保存の不備によって生じる数秒~数十秒間のデータ欠損,(b) トイレなどにより数分間,ベッドから離れることで生じるデータ欠損の2ケースに対し,前後のデータから欠損区間のデータを線形的に補完し,睡眠段階推定した.この2ケースの再現には,データ欠損の無いデータに対し疑似的に1秒・5秒・10秒の欠損区間 ((a)に対応),5分・10分のデータ欠損区間 ((b)に対応)を作成し,実験した.実験により,(a)では補完により推定精度が変化しないことを確認したが,(b)ではレム睡眠の期間を推定することが出来ず,誤った睡眠の波を推定してしまい精度が悪化してしまうことがわかった.(i) では,(ⅳ)のような精度悪化してしまう場合だけでなく,睡眠周期の変化を捉えることが出来ず誤った睡眠の波を推定しまう問題に対応するために,人間が持つ約90分の周期の体内リズムの一つであるウルトラディアンリズムに着目し,予め医師らが推定した睡眠段階を基に周期変化の箇所を決定することでウルトラディアンリズムの情報を推定法に与え,その範囲で再度睡眠を推定する再推定法をとった.3人の健康な被験者に対してそれぞれ3日分のデータを用いた実験において,従来の推定手法に比べ,最大30%の推定精度向上が見られた.中には精度の向上が見られないケースも存在したが,これは睡眠において大きく周期が変化しないケースであったためズレが生じていなかったと考えられる.以上より,進捗状況としては計画通り進行している.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度では,研究計画として掲げた4つのサブテーマのそれぞれに対して,従来の推定法よりも精度を向上させる方法を提案した.しかし,睡眠は個人だけでなく同一人物においても日によって大きく異なるため,提案法は人に寄らず精度を向上させる方法でなくてはならない.初年度に実施した,自身もしくは他人の睡眠データとの類似性を考慮した推定法は有効性を示せたが,データ数の多さと精度との関係は十分に明らかになっておらず,精度向上の余地があると考えられる.また,第2年度目に実施したウルトラディアンリズムに着目した再推定法は,医師によって診断された睡眠段階を基に周期変化を決定しているため,生体データ(心拍・体動・呼吸)から周期変化を捉えられる必要がある.このために,睡眠において一般的に用いられる30秒を1エポックという期間にした際に,生体データの周波数の大きさの変化から周期変化を捉えることで医師の診断による睡眠段階を用いない再推定法を目指す.また,提案法の有効性は無呼吸症候群のような睡眠障害を持たない健康な被験者のみにおいて検証されているため,睡眠障害患者にも精度を向上させることが出来るのかを明らかにする必要性は存在する.その際,睡眠段階の精度だけでなく,それぞれの睡眠障害の判定も望まれる.具体的には,無呼吸症候群であれば呼吸数ならびに心拍の急激の変化・覚醒状態の回数から簡易的に診断できることが望まれる.これは,詳細な検査が大掛かりのため一晩に可能な検査数に限りがある睡眠障害のスクリーニングにおいて非常に有用である.また,前述の体内リズムであるウルトラディアンリズムが睡眠障害患者には健常者とは異なることが考えられるため,提案する再推定法が用いられないことが考えられる.
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