2018 Fiscal Year Annual Research Report
嗅覚受容体を用いた大規模センサアレイによる匂いバイオセンサシステム
Project/Area Number |
17J10158
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
祐川 侑司 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 匂いセンサ / バイオセンサ / 嗅覚受容体 / 画像処理 / パターン認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,まず昨年度までに構築した匂いセンシングの手法を,異なる2つの濃度が含まれる2種類の匂いサンプルの識別について適用できるか検討した。匂い応答データの取得にあたっては,匂いサンプルの供給時間やその繰り返し周期について安定的して応答が得られるように調整した。取得した匂い応答についての主成分分析によって匂いの種類ごとにデータが分離することを確認した。さらに主成分分析における主成分負荷量に基づいて応答ベクトルを2つのグループに分類し,それぞれのグループに対応する匂い応答を評価することで,濃度に依存した応答強度の差異を確認した。 また,細胞へ匂いサンプル溶液を供給し応答測定するための計測チャンバは,気泡混入や匂いサンプルの残留などによって測定が損なわれる問題がしばしば発生した。そこで従来は密閉型であった流路を大気開放型とし,上流と下流からポンプで測定バッファ液を注入・吸引する方式を採用した。匂いサンプル溶液は流路の大気開放部分からマイクロディスペンサを利用することによって注入する方式とした。この計測チャンバの変更により,流路の接続部分での圧力差でのリークによる気泡発生が抑制され,かつ,流路残留容量での匂いサンプルの残存リスクの除去することができ,細胞応答測定の安定性を向上することができた。 一方で,匂い結合タンパク質(OBP)を嗅覚受容体発現細胞と組み合わせて利用することで気体中での匂い測定が可能となり得る。そのためタンパク質-リガンドドッキングシミュレーションと呼ばれる計算化学的手法を用いて,OBPのガス分子との吸着特性の計算機上での予測を行った。9種類のOBPについて,87種類の揮発性有機化合物および香気成分のそれぞれの結合特性を予測計算した。結果として種々のOBP間でそれほど大きな特性の差異は確認できなかったが,分子量の大きい低揮発性の分子がよく結合する傾向を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
構築した匂いバイオセンサシステムによって,異なる濃度を含んだサンプルについてもに匂い識別を実現することができた。また気泡の影響を抑え,安定した測定を行うための計測チャンバを構築できた。以上に加えて,長時間の測定に向けてさらに安定して応答データを取得可能となる見通しが立ちつつある状況にであり,大規模な細胞センサアレイ応答を利用した,さらに多くの匂い測定を実現できると考えている。 また,本測定システムでの気体の測定は未だ実現していないが,これまでに匂い結合タンパク質の特性シミュレーションなどの検討を進めてきており,着実にその実現に近づいているはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに異なる種類および異なる濃度の匂いサンプルについてもそれぞれの応答パターンが分離可能であるということを実験的に確認した。しかし,さらに多くの匂いサンプルを測定するためには,より多くの測定回数と測定時間が必要となる。そのような測定のためには連続した測定における高い再現性が求められ,特に,長時間測定における嗅覚受容体発現細胞の蛍光退色現象により蛍光応答強度が減衰する問題を回避する必要がある。したがって匂いバイオセンサシステムにおける測定方法のさらなる最適化を行う。具体的には,細胞に照射する励起光の照射のタイミングや光強度などについて検討する。 また,昨年度実施した匂い結合タンパク質(OBP)の結合特性予測に対して,実際のOBPを利用しそのガス分子吸着特性を確認する。さらにその結果をもとに嗅覚受容体発現細胞を用いた匂いバイオセンサシステムにおける,OBPの最も適切な使用方法について検討することで,気体中の匂いを計測するための生物の嗅覚システムを模倣した匂いガス測定システムを発展させる。
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