2017 Fiscal Year Annual Research Report
リン脂質修復と生体膜ストレスによるアポトーシス誘導機構の解明
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17J10213
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Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
鈴木 将貴 東京医科大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | D-セリン / リン脂質 / ホスファチジルセリン / アポトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
リン脂質二重膜により細胞構造の区切りとしての意味のみならず、細胞構造における伸展ストレスなどを知覚するセンサーとしての機能を有する。リン脂質の多くはアミノ酸のL-セリンを基質として合成されることが知られることから、膜の構成にとって重要なアミノ酸と考えられている。 D-セリンはL-セリンの光学異性体であり、哺乳類の脳内ではL-セリンに対して30%程度の量の存在が確認されている。D-セリンはL-セリンと構造が類似していることから、L-セリンの利用を阻害する可能性がある。そこで本年度は培養神経細胞にD-セリンを処理して細胞生存率の変化と脂質合成への影響を検討した。 D-セリンを初代培養神経細胞に処理し、脂質に含まれる成分を解析したところ、未処理コントロールと比較してホスファチジルセリンの増加が確認された。ホスファチジルセリンに含まれるセリンを解析したところ、多くはD-セリンであった。このことからD-セリンはホスファチジルD-セリンとして取り込まれたと考えられる。また、初代培養神経細胞にD-セリンを処理すると細胞死が確認された。細胞死とリン脂質に含まれるD-セリンの関係を明らかにするためリン脂質代謝酵素阻害剤を処理し細胞生存率を検討したが、有意な差は認められなかった。このことから細胞膜にとりこまれたD-セリンは細胞死とはあまり関係しないと考えられた。 一方でL-セリンはタンパク質性アミノ酸である。D-セリンによる細胞死の誘導がタンパク質合成への影響である可能性を検証したところ、D-セリンは直接タンパク質に取り込まれないものの、間接的にタンパク質合成を阻害することが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、D-セリンが細胞膜にストレスを与えることで細胞死を誘導していると予想していたが、予想に反し細胞膜ではなくタンパク質合成系に影響することで細胞死を誘導している可能性が示された。これは新たなアポトーシス誘導メカニズムの解明につながると期待できる。 一方でリン脂質中に取り込まれるD-セリンを分析することが可能となったことから、この分子をモニターすることによりリン脂質極性基の組成をコントロールする機構を検証することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の目的であったリン脂質の異常による細胞死はD-セリンでは誘導されないため、他の阻害剤を用いてリン脂質ストレスについて検討を行なっていく。また、ホスファチジルD-セリンの制御機構を調べることでリン脂質組成の調節機構を検証する。 同時に、D-セリン誘導性タンパク質合成制御異常によるアポトーシス誘導メカニズムを並行して検討する。
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