2017 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト多能性幹細胞由来の大脳新皮質組織を用いた霊長類に於ける神経回路の再構築
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17J10294
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂口 秀哉 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(PD) (30779153)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 大脳オルガノイド / 大脳皮質 / ヒト多能性幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、申請書の年次計画で記載した通り、大脳皮質の分化誘導を中心に条件検討を行った。 まず、SFEBq法を用いて3次元での大脳皮質組織の誘導を行った。非血清存在下に神経組織が誘導されることを元に、まずSFEBq法によって神経上皮の誘導を行い、Wnt/BMP阻害剤の添加によりそれらの神経組織を吻側化する事で大脳皮質領域の誘導を行うことで、分化誘導開始後30-40日で3次元のヒト大脳組織を得ることができた。 得られた神経組織は当初のin vitro培養条件では培養50日程度で構造が保持できなくなっていたが、40%酸素下での培養とガス透過性の改善によって長期培養が可能となり、培養100日前後まで安定して培養できるようになった。この分化誘導系を用いてヒトの大脳発生過程を模倣することを確認することができ、得られた3次元組織を、CLARITYのシステムで組織を透明化することで、cricoid様のVZ構造とそれを取り巻く神経層構造の3次元イメージングにも成功した。 最後に得られた大脳組織の機能評価として細胞内カルシウム動態をライブイメージングで観察した。大脳オルガノイドを分散培養することで自己組織的な2次元神経ネットワークの形成を行い、Fluo4-AMで前処理した後に共焦点顕微鏡でイメージングをしたところ、分散2週後では各神経の活動がバラバラに見られたが、分散4週では、神経活動には同期発火するものとそうでないものが見られた。この神経活動を評価後、CNQXで処理して、神経活動を一旦止めた後の継時的変化を観察したところ、一旦止まった神経活動はCNQX洗浄後10分ほどから活動を開始し、洗浄後30分には処理前と同じ割合の神経細胞が活動していた。しかし、その活動細胞および活動パターンは処理前とは異なるものであった。これらの活動の時系列変化を評価する系を立ち上げ、定量化および可視化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は3次元での大脳皮質オルガノイドの分化誘導における基盤を現在の研究室で立ち上げた。3次元組織の評価法として、透明化技術と3次元イメージングの高い技術を用いることによって、大脳皮質オルガノイドのWhole mount stainingによる3次元イメージングに世界で初めて成功した。また、オルガノイドの分散培養系を用いたカルシウムイメージングによって、ヒト多能性幹細胞由来の大脳神経によって形成される神経ネットワークの複雑な活動パターンを測定・評価し、ヒト大脳神経の活動測定における新たな基盤を構築した。これらの結果だけでも、ヒトの神経活動の計測を細胞レベルで可能にする技術であることより、十分な新規性と有用性を兼ね備えていることから、現在論文投稿の準備をしているところである。そのため、当初の計画より進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
大脳皮質組織の3次元での分化誘導系の確立はほぼ終了している状況であるので、今後の方針としては、本来の目的であった生体への移植とその機能評価を第1に考えている。そのため、げっ歯類への移植に関してはすでに予備検討を始めている段階で、サルへの移植については移植方法の検討や、実際の管理について各部門と相談しているところである。 ただ、分化誘導が非常に早く進んだことは良かったが、げっ歯類への大脳オルガノイドの移植についてはごく最近論文報告がなされてしまい (Mansour et al. Nat Biotech. 2018)、状況が研究開始当初とは異なってきている。当該論文においては、大脳オルガノイドのげっ歯類への移植とその詳細な機能評価が報告されてしまったので、大脳オルガノイドの移植に今後の研究を特化させることは、新規性を生むには現状では不利と考えている。よって、大脳皮質以外の神経組織に関しても挑戦してみたいと考えている。具体的には、海馬、腹側終脳に関して、分化誘導+移植後評価の確立ができればと考える。 もしくは、大脳オルガノイドの移植に成功したその研究室へ留学することができれば、当初の研究計画をより早く実現することができるかもしれないので、そのようなコンタクトも取ってみたいと考えている。
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