2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J10605
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 倫久 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 励起状態の芳香族性 / キラルスイッチ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究員は、4つのチオフェンが縮環したキラルなシクロオクタテトラエン誘導体(以下Th4COTSaddle)が動的にキラル反転を起こし、その反転の活性化エンタルピーが光励起に伴い著しく低下することを見出した。更に計算機化学的検討から、このエネルギーの低下が光励起状態の芳香族性(Baird芳香族性)の安定化効果によるものであることを明らかにした。これによりBaird芳香族性が分子にもたらす安定化効果が実験的に初めて評価され、この成果は今年度Nature Communications誌に筆頭著者論文として採択された。 さらに研究を展開すべくTh4COTSaddleの光物理物性を詳細に評価していく中で、この分子がある特定の吸収波長領域において比較的高い異方性因子を持つことを明らかにした。その高い異方性因子によりTh4COTSaddleはある波長の左右円偏光照射により異なる速度でラセミ化する。光という物理刺激だけで系中の分子不斉を可逆に片方に偏らせることも、ラセミ化することもできる本分子は新規性が非常に高い。ここから研究の方向性を変え、Th4COTSaddleを基盤とするキラルスイッチの開拓を目指すことにした。 異方性因子を増強し円偏光励起による逆ラセミ化を加速させる戦略として、まずはTh4COTSaddleを有する超分子集合体に着目した。新規に合成した分子は中間相としてカラムナー液晶相を発現し、また溶液中においても集合化の挙動が見られた。現在、この超分子集合体の光物理物性、キロプティカル特性、また液晶相における刺激応答能の調査を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は種々の軸不斉を有する分子のキラル反転の光制御を展開する予定だったが、その実験の過程でTh4COTSaddleの円偏光逆ラセミ化挙動を発見した。当初の目的とは少し異なるものの、Th4COTSaddleを基盤とするキラルスイッチの開拓に興味が持たれるため、現在はこの超分子集合化を中心とした研究にシフトしている。
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Strategy for Future Research Activity |
今回設計した超分子集合体の光物理物性・キロプティカル物性から、光のみで系中の分子不斉を左右あるいはラセミの三状態に自由にスイッチング可能な条件を検討する。具体的には溶媒、濃度、温度、励起波長が挙げられる。最適化の後、研究戦略の検証と新奇な不斉メモリーへの展開を検討していきたい。
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Research Products
(7 results)