2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J10781
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
末重 拓己 東京工業大学, 情報理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 経済物理 / ビッグデータ / 外国為替市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
今金融市場におけるトレーダ個々の戦略解明は,金融市場の取引メカニズムを解明するうえで不可欠なものであると認識されてきたが,その戦略を実証分析するためのデータがなく,長らく実証研究として未解明のままであった.しかし,2016に受入研究者の研究室で,金融市場の中で最も取引金額の大きい外国為替市場について,匿名化されたトレーダ個々の注文履歴を追跡できるデータがEBS社より入手できた.そこで,注文を頻繁に出すトレーダ(High frequency trader, HFT)の戦略を解析した.解析の結果は次の3点である; 1.[トレンド・フォローの関数形について普遍性を発見] HFTの上位は,トレンド・フォローと呼ばれる,直近の取引価格の推移に追随するように注文価格を修正していくこと,そしてトレンドへの応答は,hyperbolic tangentと呼ばれる関数形で近似でき,さらにはこの関数形が上位のHFTでは普遍的に観測されることを明らかにした. 2.[平均板の形状+取引価格の統計則をトレーダの戦略を与えたミクロモデルから再現] 1.の普遍的な関数形をミクロモデルのシミュレーション・ルールとし,数値計算によりトレーダの注文の集合(メゾレベル)である板の形状,そして個々のトレーダの取引の時系列である取引価格推移(マクロレベル)の統計則の再現に成功した. 3.[先行研究で示された層構造のメカニズムを解明] 先行研究では,層構造と呼ばれる,取引価格変化に対して板の形状が正の相関をもって変化する箇所と,負の相関をもって変化する箇所があることが指摘されていた[1].この層構造の起源は,各トレーダがトレンド・フォローをすることにより自然に観測される現象であることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画で想定していた内容の一部を論文化し,Physical Review Letterにアクセプトされた. さらに数篇の論文を投稿中しており,研究計画の進捗は順調であると考えている. ただし一昨年度までデータを購入していたEBS社の方針変換により,現在使用している,個々のトレーダの注文履歴をトラッキングできるデータの購入の見通しが立たなくなっった.そのため,既存のデータセットをもとに研究を進める必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
現在まで研究計画が順調に進んでおり,研究計画修正の必要性は現状認識していない. 今年度の解析では,トレーダの平均的な戦略と,取引価格の統計則のつながりを明らかにした.次年度では,トレーダの戦略の多様性,および多様な戦略の中から,取引価格の不安定性をもたらす戦略を特定し,金融市場を安定化させるための方法まで踏み込んで解析を行う予定である.
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