2017 Fiscal Year Annual Research Report
元素の特性を活かした効率的分子骨格構築法の開発と新機能創出
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17J10805
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大井 未来 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | クロスカップリング反応 / 有機銅試薬 / 三次元的に嵩高い基質 / 炭素-炭素結合形成反応 / 第三級アルキルカップリング反応 / 反応機構解析 / 協奏的芳香族求核置換型アミノ化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機銅試薬を用いた嵩高い基質におけるクロスカップリング反応の開発では、機能性分子のコアとして有用でありながら、これまでクロスカップリング反応の報告例の無いトリプチセンを基質として選択し、実験・理論の両面から詳細に検討した。理論計算により、クロスカップリング反応において有機金属錯体が最も影響を及ぼすトランスメタル化段階の反応機構解析を行った。その結果、トランスメタル化段階の遷移状態において、銅―パラジウム間の距離がそれぞれのファンデルワールス半径の和よりも短く、銅―パラジウム間に強い相互作用が働いていることを見出した。この金属間相互作用の詳細について明らかにすべくNBO解析を行ったところ、銅の占有軌道(3dxy)からパラジウムの空軌道への電子供与が確認され、相互作用により構造的にも電子的にも配位子の受け渡しが効率的に進行することが示された。実際に、本反応はトリプチセンやキュバンなど極めて嵩高い化合物を含むsp2-炭素、およびsp3-炭素いずれにおいても同一条件下にて適用可能であり、多様な炭素―炭素結合の効率的合成法を実現した。さらに、有機銅試薬を用いるβ水素を有する第三級アルカンの芳香族化合物への導入法の開発にも取り組んだ。 海外研究室との共同研究においては、NaH-LiIを用いた「遷移金属触媒を用いない芳香族アミノ化反応」の理論計算による反応機構解析を行った。本反応は、脱離基として一般に不活性なメトキシ基を用いて速やかに反応が進行するなど特異な反応性を示した。古典的な芳香族求核置換反応はアニオン中間体を経由する段階的反応であるが、実験および理論計算結果から、本芳香族アミノ化反応はメトキシ基の脱離とアミノ基の付加が「協奏的」に進行し、加えてNaH-LiIにおける活性化されたナトリウムカチオンの高いLewis酸性に起因するメトキシ基の活性化が鍵であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目標の一つは、元素の特性を活かした効率的分子骨格構築法の開発である。研究 1 年目の昨年度は、嵩高い基質に極めて強力なクロスカップリング反応を開発した。有機銅試薬の特性である高エネルギー準位 d 軌道、および銅錯体の空配座に着目し、理論計算も駆使してパラジウム触媒との間に効率的に働く金属―金属間相互作用の詳細を明らかにした。さらに実際の反応系に相互作用を活用することで、基質自身の立体障害のためにこれまで課題として残されていた、三次元的に嵩高い骨格における炭素―炭素結合形成反応を実現した。また、NaH-LiI を用いた「遷移金属触媒を用いない芳香族アミノ化反応」の反応機構解析を行った。LiI によって会合状態が解けたナトリウムカチオンの高い Lewis 酸性(配位能)および s 軌道の柔軟な配位方向性により、脱離基であるメトキシ基と求核部位であるアミノ基の両方に配位することで、効率的に協奏的な機構で反応が進行することを明らかにした。一方、「アリールホスフィンオキシドの脱芳香環反応」では、ヒドリドのホスフィン中心への求核付加によって反応が進行することが判明した。同じ NaH-LiI の活性種を用いた場合にも反応条件および基質によって異なる機構で反応が進行することを見出した。 上述のように、種々の金属種の特性を活かした反応系を設計することで、新たな反応性・反応機構を見出すことが出来た。このことから、本研究の課題の一つ、元素の特性を活かした効率的分子骨格の構築法の開発が達成されたため、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究では、金属元素として銅、ナトリウム種の特性を活かし、炭素―炭素結合/炭素―窒素結合形成反応の開発、および理論計算によりその反応機構を明らかにすることが出来た。元素特性の理解・中間体錯体の解析は、これまでにない反応性を引き出す新反応の開発における一種の指標として有用であると言える。 今後は、さらに多様な元素を活用することで、触媒反応の開発を主眼に研究を進めていく。金属元素の価数の制御、および遷移状態の安定化や反応点の活性化のために必要な配位子は、理論計算も駆使して効率的に設計・合成を進めていきたい。触媒サイクルを確立すべく、各中間体錯体の反応性について精査する。さらには、他の触媒サイクルと組み合わせることで、金属元素だけでなく、様々な元素の特性をハイブリッドさせた新たな効率的分子骨格構築法の開発に展開する。 また本研究のもう一つの目的である、元素の特性を活かした新機能創出にも取り組んでいく予定である。光線力学療法や抗体薬物複合体といった治療薬として用いられる分子群について、元素の特性を活用することでその機能の向上を目指したい。それぞれ、吸収波長領域の長波長化、抗体と低分子薬とを繋ぐリンカーの切断効率の向上などの課題に対し、分子軌道解析などの理論的解析を基に適切な位置に適切な元素を導入することによりさらなる機能の向上を目指す。 これらの実現にあたっては実験・理論の両面からフィードバックを行い、相乗的に研究を推進していく所存である。
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Research Products
(4 results)