2018 Fiscal Year Annual Research Report
元素の特性を活かした効率的分子骨格構築法の開発と新機能創出
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17J10805
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大井 未来 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / アミロイドβ(Aβ)ペプチド / Aβ選択的光酸素化触媒 / メチレンブルー / レドックス活性配位子 / Zr-活性配位子金属錯体 / ピリジン誘導体合成法 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目は分子骨格の特性および相互作用に着目し、生体への適用を志向したアミロイドβ(Aβ)ペプチド選択的光酸素化触媒の開発に取り組んだ。また、ジルコニウム(Zr)-レドックス活性配位子錯体を用いた触媒的ピリジン誘導体合成法の開発を行った。 Aβは脳内に異常凝集・蓄積することにより細胞毒性を有し、アルツハイマー病(AD)を発症する原因物質であると考えられている。本研究では、Aβ選択的光酸素化触媒の開発に取り組んでいる。当研究室にて開発されたメチレンブルー(MB)を母骨格とする触媒を基盤に、生体への適用を志向して構造改変を行った。生体内における触媒分子を“光”で効率的に活性化するには、生体深部に光を到達させる必要があるため、より長波長の光(近赤外光)を吸収する分子設計が好ましい。そこで、理論計算を用いてMB誘導体の分子軌道や最大吸収波長を予測し、近赤外領域に吸収を有する分子を設計した。また、触媒分子同士のスタッキングによる失活を抑制するためにMB骨格に立体的な置換基を導入した。これらの分子設計に基づき幾つかの有力MB誘導体を合成し、UV-visスペクトル測定・Aβ酸素化の検討を行った結果、MBと比較してより長波長の光を吸収し、Aβに対する酸素化活性を有する触媒分子の創製に成功した。 Zr-活性配位子金属錯体を用いて窒素含有拡張π共役骨格の構築を志向したピリジン誘導体合成法の開発に挑んだ。近年、配位子のレドックス能により金属試薬の構造的・電子的制御を可能にするZr金属錯体が報告されたが、有機反応への応用は未だ限られていた。本研究では、Zr-活性配位子金属錯体の不飽和結合への高い反応性に着目し、有機合成化学での展開を試みた。種々検討の結果、触媒量のZr-活性配位子金属錯体存在下、ジイン化合物とニトリル化合物との反応が進行し、温和な条件にてピリジン誘導体を生成することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目標は、元素の特性を活かした効率的分子骨格構築法の開発と新機能の創出である。研究 2 年目の昨年度は、元素特性に加えて分子骨格の特性に起因する元素-配位子間相互作用、ならびに分子同士の相互作用に着目し、分子骨格構築法の開発および新機能の創出に取り組んだ。 アントラセン型レドックス活性配位子ジルコニウム (Zr) 錯体は、温和な条件にて二酸化炭素や一酸化炭素などの小分子を活性化する。アントラセン骨格中央の低い芳香族性に起因する中心金属に対する自在な酸化還元能により、高活性 Zr(II) 中心は形式的に Zr(IV) として適切に安定化される。本研究ではアントラセン型レドックス活性配位子 Zr 錯体を、これまで適用が限られていた有機合成反応へ展開し、金属錯体の特性を活用することでジイン化合物とニトリル化合物との反応により温和な条件にてピリジン誘導体を生成することを見出した。「アミロイド β(Aβ) 選択的光酸素化触媒」の開発においては、触媒の母骨格であるメチレンブルー (MB) 部位に関して理論計算も駆使して精密に設計することにより、最大吸収波長の長波長化ならびに触媒分子同士のスタッキングによる失活の抑制を実現した。合成した新規 MB 誘導体はさらなる構造展開によって、従来の触媒分子ではAβの酸素化が困難である生体内に近い反応条件下においても、酸素化反応が進行する新たな機能を引き出した。 上述のように、元素の特性に加えて分子骨格との相互作用を活用することで、新機能の創出、また強力な反応性を引き出すことが出来た。このことから、本研究課題である元素の特性を活かした反応開発ならびに新機能創出が達成されつつあり、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、理論計算を駆使した分子設計により、長波長の光によって活性化可能なメチレンブルー (MB) 誘導体の設計・合成に成功した。種々の分光学的手法により、触媒分子と標的ペプチドとの相互作用による触媒分子同士の凝集現象についても明らかにしつつある。これらの構造改変により創製した触媒分子は、生体内環境における効率的な活性化の実現に有用であると言える。 今後は、新たに創生した触媒分子の生体内での実用化を視野に研究を進める。開発したMB誘導体に対し、リンカー・スイッチ部位の導入、および低細胞毒性化に向けた構造改変を行う。母骨格となる種々のMB誘導体の構造に依り、それぞれ適切なリンカーの長さ・構造を設計する。設計にあたっては、これまでに合成した数種類のMB型光酸素化触媒をもとに分光学的手法により、触媒分子の凝集度合いや酸素化活性を評価しこのデータを基に考察する。MB型光酸素化触媒は、カチオン性を有するMB骨格に疎水性の高いリンカー・スイッチ部位が導入された構造であり、これにより細胞表面のアニオン性リン脂質や細胞内膜の疎水性との強い相互作用によって細胞毒性が発現していると考えられた。そこで低細胞毒性化へ向けた触媒の構造改変としては、分子構造に由来する性質である「カチオン性」の打ち消し、ならびに「両親媒性」の緩和を目指す。触媒分子に生理的条件下にてアニオン性を示し、疎水性の高いテトラゾール基を導入することでこれらの問題を克服する。 最終的には、アルツハイマー病モデルマウスを用いて実際に生体内での触媒の活性評価を行う。生物学的解析に加え、物理化学的解析手法も取り入れ多角的に考察し、フィードバックを行うことで理論的に触媒分子の改変に取り組み、さらなる機能の向上を目指す。これに加えて、生体内でより非侵襲的かつ効率的に触媒分子を活用することを目標に、新たな分子活性化法の開拓に取り組む。
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Research Products
(1 results)