2017 Fiscal Year Annual Research Report
歪んだフタロシアニン錯体を基盤とする近赤外光応答型人工光合成システムの創出
Project/Area Number |
17J11036
|
Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
榎本 孝文 総合研究大学院大学, 物理科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 近赤外光 / 光誘起電子移動 / 歪んだフタロシアニン |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は平成29年度に“近赤外吸収色素DPc-Cl(1,4,8,11,15,18,22,25-octabutoxy-2,3,9,10,16,17,23,24-octachlorophthalocyanine)を用いた近赤外光誘起電子移動反応の反応メカニズムに関する検討”及び“DPc-Cl金属錯体の合成と光反応性評価”という2つのテーマを実施した.前者に関しては,新規に発見した近赤外光誘起電子移動反応系に関して詳細な反応解析を行い,光誘起電子移動反応が動的消光過程を経由して進行していることを明らかにした.この成果は動的消光過程による光誘起電子移動反応が近赤外光を駆動力としても達成できることを世界で初めて実証した例であり,申請者が第一著者としてまとめた論文が国際紙に掲載された(J. Chem. Phys. Accepted.).後者に関しては,申請者のこれまでの研究で得られた近赤外光誘起光電子移動系を発展させるべく,DPc-Cl骨格中に反応活性中心を導入した新規錯体DPc-Cl-Ptの合成及びその光化学的物性の評価を行った.光安定性試験や過渡吸収測定などの結果から,DPc-Cl-Ptが優れた光化学的特性を有していることを明らかにした.また,適切な反応条件を用いることで,DPc-Cl-Ptが近赤外光に応答して化学反応を起こすことを見出した.本年度に得られた成果に関して,国内学会で1件のポスター発表(ポスター賞受賞),及び2件英語口頭発表を行った..
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究においては,まず,DPc-Clを用いた近赤外光誘起電子移動反応の反応メカニズムに関する検討を行い,この反応が既存の近赤外光誘起反応とは異なるメカニズムで進行していることを明らかにした.この結果は,近赤外光利用の化学に一石を投じるものであり,その重要性は大きい.これらの成果に関して申請者が第一著者として論文にまとめ,国際紙へと掲載された(J. Chem. Phys. Accepted.).また,国内学会で1件のポスター発表,及び2件英語口頭発表を行い,ポスター賞を受賞するなど,高い注目を集めている. 続いて,これまでに開発したDPc-Clの系をさらに発展させるべく,新規金属錯体であるDPc-Cl-Ptの合成と基礎物性評価を行った.この結果,DPc-Cl-Ptが近赤外光誘起電子移動反応のために必要な3つの光化学的特性(1.強い近赤外光吸収能,2.高い光安定性,3.長寿命の励起状態)を有していることが明らかとなった.さらに,犠牲還元剤の共存下において,このDPc-Cl-Ptが近赤外光に応答した化学反応を起こすことを明らかにした.以上の成果から,この新規金属錯体DPc-Cl-Ptが,当初の目的であった近赤外光誘起物質変換反応を達成するために十分な化学的特性を有していることが示された.
|
Strategy for Future Research Activity |
1年目に合成したDPc-Clの白金錯体に関して,実際に光水素発生系を構築し,近赤外光照射に伴う触媒活性の評価を行う.具体的には,ガスクロマトグラフィーを用いて,反応生成物の同定および触媒回転数の算出を行う.過渡吸収測定や速度論解析を行うことで,反応のメカニズムを解明する.得れた知見をもとに,反応条件の最適化を行う.溶媒条件やpH変化させながら近赤外光誘起水素発生反応を行うことで,効率的なプロトンを活性化を実現するための条件を検討する.また,電子源となる犠牲還元剤の種類を変更することで,より効率的な近赤外光電子移動反応を達成する.さらに,必要に応じて錯体の分子構造の最適化も行い,近赤外光を駆動力とした効率的な水素発生反応系の構築を目指す.DPc-Clの白金錯体を用いた近赤外光誘起水素発生系を構築した後には,水素以外の基質をターゲットとした近赤外光応答型人工光合成システムの設計,合成,評価を行う.具体的には,レニウムのような貴金属イオンを活性中心とする歪んだフタロシアニン錯体を新規に合成し,その基礎物性を明らかにする.また,これら用いることで二酸化炭素還元反応をはじめとする,より活性化障壁の大きな化学反応を近赤外光で駆動する.最終的には,近赤外光を駆動力とする物質の自在変換技術の確立を目指す.
|