2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J11198
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
須藤 洸基 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 言語進化 / 楽譜解析 / 形式文法 / 言語獲得 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は,言語における文法と意味が自立的に創発される言語進化モデルを構築してその性質をコンピュータシミュレーションで調査し,実際の言語進化現象を説明することである.既存の言語進化の研究では,合成性・再帰性を表現した(構造のある)意味を規定することで合成性のある言語を獲得することが示された.合成性とは文の意味が文を構成する単語の意味とその順序によって構築される性質で,聞いたことのない文を文法と単語から生成するための重要な性質である.再帰性とはある文の要素を構成する要素にそれ自身を含むことのできる性質で,この合成性・再帰性の発生が言語進化によって説明されているのだが,人間の扱う意味がどのようにしてそのような構造を持つようになったのかは説明されていない.本研究では,意味の構造発生と言語の合成性を同時に説明するモデルを構築して言語進化の可能性をさらに追及していく. 音楽と言語は共通の起源を持つといわれており,自然言語への試みを音楽に適用する事例もある.そこで本年度の研究では,意味の構造が進化的に生成される具体例として音楽に注目した.音楽は12音というシンボル数や音楽の種類数から言って言語よりも普遍性が強い.特に広く受け入れられているクラシック音楽で,音楽の意味の一部であるだろう音楽理論を言語進化によって発見できるかを追究した.具体的には,言語進化のプロセスの中で意味の構造と文法を同時に発見する学習方法の考案である.提案する学習方法を使った実験の結果,楽譜から学習した文法を使って構成された構文木が音楽理論に基づいて解釈することができ,楽譜の意味(音楽理論)を言語進化のプロセスによって見つけ出せることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
音楽と言語は音や文字(楽譜や文)を介して人間に認識されるという共通点を持っており,音楽のルーツは言語と同じであるという研究も報告されている.音楽と言語が同じルーツを持つのであれば,言語に関する知見を音楽に適用することが可能であると考えられる.我々は,Kirby(1998)が提案した繰り返し学習モデル(Iterated Learning Model)[2]を基に,楽譜を言語とみなして言語獲得するモデルを考案した.繰り返し学習モデルとは,合成性と再帰性が言語に発現する過程をシミュレーションするモデルである.合成性とは,文を構成する要素(単語や節,句等)の順番とそれらの意味によって文の意味が決定する性質である.再帰性とは,「ある文を構成する要素」の中に「ある文を構成する要素」が再帰的に含むことのできる性質である.我々はこの繰り返し学習モデルの合成性と再帰性を発見する言語獲得に注目して,楽譜のシンボル列の合成性と再帰性を発見するモデルを構築した.本研究では,ブルグミュラー25の練習曲を用いて各楽譜を音名でシンボル列化して,我々のモデルで合成性と再帰性の発見を行った.その結果として獲得された言語を用いて各楽譜のシンボル列の解析木を構成して,これを各楽譜に対する文法的理解とする.この楽譜の解析木が現代の音楽理論と対応するところが発見されており,事前の音楽的知識を用いず文法発見の手法だけにより楽譜を自動解析する可能性を示した.また,言語と音楽には文法的理解という共通基盤が存在することを示唆した.
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Strategy for Future Research Activity |
現在の研究の進捗は研究計画通り順調に進んでいる.平成29年度の計画では,文化進化という視点からみた音楽の文法理解を学習するモデルを提案してその妥当性を説明することだった.平成30年度では,音楽の意味理解を学習するモデルから言語の意味理解を学習するモデルへと再構築する.既存の文法構造を学習するモデルと組み合わせて本研究課題の目標である文法・意味構造進化モデルへと昇華させるため本研究での重要なステップである.計画的な実験と評価,学会発表を行って幅広い意見を取り入れた議論を行っていく.
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Research Products
(1 results)