2018 Fiscal Year Annual Research Report
海洋性ビブリオ菌べん毛モーター回転子の構造変化の解明
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17J11237
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
錦野 達郎 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | べん毛モーター / 回転子 / 回転方向制御 / FliG / NMR / クライオトモグラム / 海洋性ビブリオ菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
バクテリアの運動器官であるべん毛は、時計回り(clockwise, CW)と反時計回り(counterclockwise, CCW)の両方向に回転することができるモーターである。モーターの回転は、固定子及び回転子と呼ばれるタンパク質複合体の適切な相互作用により、細胞膜内外の電気化学ポテンシャルを運動エネルギーに変換することで生じる。回転子中のC-ringは、3種類のタンパク質[FliG, FliM, FliN]からなり、2種類の膜タンパク質「PomA, PomB」からなる固定子との相互作用によるエネルギー変換と回転方向の決定に関わる。しかしながら、回転方向切り替えの際にFliGにどのような構造変化が生じるのかや、その際にどのように固定子と相互作用するかは明らかとなっていない。申請者は、Na+駆動型べん毛をもつビブリオ菌の回転子の、CWとCCWに回転が偏っている状態での構造を明らかにすることで、回転方向切り替えにおけるべん毛モーターのエネルギー変換の仕組みを理解したいと考えている。本年度は、これまでに取得できていた回転方向制御が異常になるFliG変異体を核磁気共鳴(NMR)法とクライオトモグラム(Cryo-ET)法を用いて構造解析を行った。 米国Yale大学所属Liu博士と共同研究しているCryo-ET法では、データの追加と昨年度までに得られていたデータの詳細な解析のために、本年度の6月から8月の約2か月間Liu博士の下に再渡航し、解析を進めた。現在も解析を継続している。 NMR法では、阪大蛋白研所属の宮ノ入博士と共同で、測定で得られたシグナルの感度が最もよかったG215A変異体の構造情報の取得を進めている。この途中経過を長浜バイオ大所属の土方博士、白井博士による分子動力学シミュレーションによるモデルと合わせて論文を執筆し、Sci Rep.にアクセプトされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに課題解決の手がかりとなるFliG変異体を3種類(回転方向の切り替え頻度が野生型の2倍に増加していたE144D変異体、CCWへの回転方向の偏りがみられるG214S変異体、回転方向がCWに固定されるG215A変異体)単離している。これらの変異体の構造変化をNMR法と分子動力学シミュレーションにより解析し、内容をまとめた論文をSpi Rep.に出版した。NMR法では、さらなる構造情報の取得を目指し変異が導入されているFliGmc断片の解析を継続して進めている。 Cryo-EM法では、昨年度に引き続いて本年度も6月から8月の2か月間米国yale大学所属のLiu博士の下に留学し構造解析を進めた。今回の渡航で、G214S及びG215A変異が導入されている回転子の画像が解析に必要な量(1000個)に到達し、解析を進めるめどが立った。現在解析を進めているが、G214S及びG215A変異体間で構造変化がみられる結果が得られている。 また、固定子の振る舞いを明らかにするために固定子変異体の解析も行った。ビオチンマレイミドがシステイン残基に結合することを利用して、べん毛回転の際に回転子と相互作用することが分かっているPomAの細胞質領域の表面露出度を定性的に議論した。回転による露出度の変化はみられなかったが、固定子へのNa+の結合により露出度の変化がみられた。この固定子の振る舞いの変化を論文にまとめ、申請者を筆頭第二著者としてJ. Biochem(Tokyo)に投稿し、査読中である。また、Na+が固定子から漏れるPlug欠失変異、Na+が流れないPomB-D24N変異、流入に高いNa+を必要とするPomA-D31C変異をそれぞれ組み合わせて精製し、その状態の違いからイオン透過の際に生じる固定子の構造変化を明らかにした。この内容を、申請者を筆頭第一著者として論文化し、投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
Cryo-ET法では、得られている構造解析のデータの精度を上げ、CW及びCCW回転間でC-ringに生じることが分かっている構造変化の詳細を明らかにし、論文の出版を目指す。 NMR法は、構造解析に最も適したFliGmc断片のG215A変異体の解析を継続して進める。現在、高圧NMRやアミノ酸特異的ラベルを用いたシグナルの測定を行っており、野生型や他の変異体(G214S変異体など)でも測定と構造情報の比較を検討している。現在までに、野生型では複数の状態をとるFliGmc断片がG215A変異により特定の状態を取りやすくなることが示唆されている結果を得ており、この結果に長浜バイオ大学所属の土方博士、白井博士による分子動力学シミュレーションを加えまとめ、論文の出版をめざす。 G215A変異が導入されたFliGmc断片の結晶化条件を検討したところ、適した条件が見つかった。得られた結晶の構造解析を阪大超分子科学所属の今田博士、竹川博士と共同で行う。FliGの全長やいくつかのドメインを含むコンストラクトを作成し、変異を導入したうえで大量発現後、精製、及び結晶化条件の検討とNMR法でのシグナルの測定も行う予定である。 固定子の解析では、投稿中及び投稿準備中の2報の論文の出版を目指す。これまで得られているイオン透過や回転子との相互作用に影響がある変異体の精製条件の検討を行い、結晶化条件やNMR法での測定を目指す。
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