2017 Fiscal Year Annual Research Report
魚類の互恵的利他行動の実証:しっぺ返し戦略によるDear enemy現象を使って
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17J11369
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
十川 俊平 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | Tit for Tat / Dear enemy / cichlid / Reciprocity |
Outline of Annual Research Achievements |
Dear enemy が互恵的利他行動であった場合、その関係を維持していくうえでコストを払い続けていることが予想される。一方、そのコストを上回るベネフィットも受け取っているはずである。そこで、N. pulcherを用い、単独で生活している個体、Dear enemy を構築した隣人と生活している個体、Dear enemy を構築していない未知個体と生活している個体を5日間の絶食状態で飼育し、その間の実験の個体の体重の減少量と他個体への攻撃に費やしている時間を比較した。結果、Dear enemy を構築した隣人と生活している個体の体重の減少量は、構築していない個体と生活している個体に比べて優位に少なかったが、単独で生活している個体よりは優位に多かった。また、Dear enemy を構築した隣人と生活している個体の攻撃に費やした時間は構築していない個体と生活している個体と比べて優位に少なかった。このことから、Dear enemy を構築することで縄張り防衛のコストを下げ、エネルギーを節約することは出来るが、単独で生活をするのに比べるとやはりコスト(エネルギー)を支払ってDear enemy を構築した個体と関係を持っていることが分かった。以上から、Dear enemy の維持にかかるコスト<Dear enemy による縄張り防衛コストの削減となり、Dear enemy が互恵的利他行動として成り立つ可能性があることが示唆された。本研究は国際学会Behaviour2017でポスター発表を行った。また、本種におけるTit for Tatを確認するために、追加実験を行った。実験の結果、本種は自分の縄張りに侵入した未知個体が自分の縄張りの外に出たとしても継続して攻撃し、Tit for Tatが未知個体には適応されないことを示した。この研究はFrontiersに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Dear enemyにおけるTit for Tatの野外での検証 2017年9月から12月にかけてタンガニイカ湖でダイビングによる調査を行い。Variabilichromis mooriiが野外においてDear enemyを構築し、それがTit for Tatによって成り立っているのかを調査した。方法は複数のDear enemy を構築した隣接個体によって囲まれた実験個体を除去し、隣接個体・未知個体の自発的な侵入を促し、その後実験個体をもとの縄張りに戻すことで、実験個体が侵入者に対してどのような行動をとりかを観察し、記録を取った。結果として、誰も侵入しなかった・Dear enemy を構築した隣接個体が侵入した・Dear enemy を構築していない未知個体が侵入した、の3パターンが確認された。誰も侵入しなかった場合、実験個体は自分の縄張りに戻っても誰も攻撃しなかった。次に、Dear enemy を構築した隣接個体が侵入した場合、実験個体は侵入した隣接個体に対してだけ攻撃を行った。しかし、その隣接個体が自分の縄張りに戻るとそれ以上攻撃することはなかった。最後にDear enemy を構築していない未知個体が侵入した場合、実験個体は自分の縄張りの中だけでなく、他人の縄張りの通り過ぎても侵入した未知個体を追いかけまわした。さらに、一度未知個体を追い払った後に再びその未知個体の姿が見えると、たとえ他人の縄張りの向こう側であろうが飛び出して行って攻撃を加えた。以上の結果から、Dear enemy を構築した隣接個体の侵入に対する攻撃と、Dear enemy を構築していない未知個体の侵入に対する攻撃は質の違うものであり、前者は互恵的利他行動を維持するためのTit for Tatにおける「罰」としての機能があるのではないかと予想された。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究で、Dear enemyのコストがベネフィットを上回っており、またTit for Tatは複数の隣接個体がいる野外においても用いられていることが示された。また、裏切った隣接個体に対する攻撃と、未知個体の侵入に対する攻撃は異なるものであり、裏切って侵入した隣接個体に対する攻撃は「罰」として働いている可能性が示唆された。これにより、互恵的利他行動の条件「①裏切りに対する罰がある。②コストとベネフィットの計算ができる。」は示された。今後、Deare enemyが互恵的利他行動であることを示すためにはやはり、条件③「最初にコストを支払ってからベネフィットを受け取るまでに時間差がある」ことを示さねばならない。そのためにも摂餌縄張りを持つ藻食いによるDear enemy の構築過程において個体間でどのようなインタラクションがあるのかを観察する必要があると考えられる。これは、今まで行われてきたDear enemyの研究と異なり、世界で初めてこの現象の構築過程に着目した研究になる。予想としては、縄張りの境界にいて寛容になる際に、隣接する縄張りの片方の個体が先に相手に対する攻撃を軟化させ、Dear enemyを構築し始める。しかし、その間攻撃を軟化させた個体は一方的に攻撃される、あるいは縄張りの境界を押し込まれることが予想される。これが初期に支払うコストになる。しかし、その後Dear enemyから得られるベネフィットが大きいため、この関係は維持されると予想される。問題は、先に攻撃を軟化させた方はさせなかった方に比べて明らかに不利になるので、その決断はどのようにして行われるかという生態的理由を考慮して実験を行わなければならないことである。もしかしたら、先に闘争する余裕のなくなった側が攻撃をやめるのかもしれない。
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