2017 Fiscal Year Annual Research Report
近赤外光に応答する一酸化炭素放出鉄錯体の合成とタンパク質との複合化
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17J11464
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中江 豊崇 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 一酸化炭素放出分子 / 鉄カルボニル錯体 / 近赤外光応答性 / 光反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
「近赤外光に応答する一酸化炭素放出鉄錯体の合成とタンパク質との複合化」に向けて、平成29年度は以下の研究成果を得た。 (1) 生体透過性の高い領域(650―1000 nm)の光の照射によって一酸化炭素放出を誘起できるN,C,S-ピンサー配位子を有する鉄カルボニル錯体の開発に向けて、軸位にホスフィンもしくはホスファイト配位子を有する鉄(III)カルボニル錯体を合成し、その性質と光反応性について調査した。合成した各鉄(III)カルボニル錯体の光応答性一酸化炭素放出能を調査した結果、軸位にホスフィン配位子を有する鉄(III)錯体では500 nmよりも長波長の光では一酸化炭素の放出が確認されなかった。その一方で、ホスファイト配位子を有する鉄(III)カルボニル錯体では392―800 nmの光によって一酸化炭素の放出を誘起できることを見出した。800 nmの光は高い生体透過性を示す”生体の窓”と呼ばれる領域にあり、外部からの近赤外光の照射によって生体内における一酸化炭素放出の誘起が期待できる。 (2) 上記の特異な光反応性について知見を得るべく量子化学計算を行った。その結果から、軸位のリン配位子が有するπ受容性が光反応性に大きな影響を与えることが示唆された。また、鉄(III)カルボニル錯体の特異な電子状態によって初めて実現される励起状態が、鉄(III)カルボニル錯体における長波長光によって誘起可能な一酸化炭素放出の鍵となることが示唆された。 (3) タンパク質との複合化に向けて、リンカー部位を導入した配位子前駆体の合成と、その配位子前駆体を用いて鉄(III)錯体の前駆錯体となるN,C,S-三座配位子を有する二核鉄錯体の合成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
N,C,S-三座配位子を有する鉄(III)カルボニル錯体を利用することで、本研究の第一の目標である「近赤外光に応答して一酸化炭素を放出可能な鉄錯体」の開発に成功した。一方で、軸位にリン配位子が存在することでリン配位子による毒性が懸念され、実用的な一酸化炭素放出分子としての利用が困難であることが指摘された。量子化学計算の結果から光反応に対して軸配位子が与える影響についての知見が得られており、これは今後のリン配位子を含まない近赤外光応答性一酸化炭素放出分子の設計につながる重要な知見である。また、タンパク質との複合化に向けてリンカー部位を導入した前駆錯体である二核鉄錯体の合成にも成功した。総合的に判断するとおおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
鉄(III)カルボニル錯体による近赤外光応答性一酸化炭素放出分子の合成について成功し、量子化学計算を用いた反応機構の解明についても順調に進んでいる。そこで、これまでの研究で得られた知見をもとに、毒性が懸念されるリン配位子を含まない鉄(III)カルボニル錯体の開発を試みる。また、本研究の目標であるタンパク質との複合化に向けたリンカー部位をもつ錯体の合成を進めていく。
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Research Products
(5 results)