2017 Fiscal Year Annual Research Report
長距離量子通信に向けたダイヤモンド量子中継機能素子の開発
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17J11473
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
関口 雄平 横浜国立大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 量子テレポーテーション / 量子状態転写 / ダイヤモンドNV中心 / 量子中継 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、情報通信、処理、計算に破壊的イノベーションを生み出す新時代の情報基盤となる長距離量子情報通信ネットワークの実現に向け、ダイヤモンド量子中継器の機能実証を目的とする。初年度はその機能の一部として、量子通信路において情報を伝送するメディアである単一光子から、量子中継地点において情報を保持するメディアとなるダイヤモンド中の単一炭素核スピン量子メモリーへ量子情報を転送(量子テレポーテーション)する量子メディア変換を実証した。 核スピンは外界との磁気的な相互作用が電子スピンに比べて約千倍小さいため、環境ノイズに強いが、一方で制御性は悪く光子で直接アクセスすることが出来ない。そこで、インターフェイスとしてダイヤモンド中の単一窒素空孔(NV)中心に捕獲された制御性の良い電子を利用し、制御性の悪い核スピンに対する制御を可能にした。今回扱った同位体炭素(13C)核スピンはダイヤモンド中に天然で1.1%含まれるため、NV中心を構成する窒素の核スピンを対象にした先行研究と比べスケーラブルな集積量子メモリーを実現できるほか、電子スピンから距離が離れているため、電子スピンを介した間接的なノイズに対してもより強固な量子メモリーとなる。 本実証は、量子中継における情報保持の誤り耐性や通信の多重化を見出しただけでなく、光子、電子、核子といった異なる粒子から構成されるハイブリッド量子系全体を高度な技術によって制御した数少ない実例であり、粒子ごとの長所短所をうまく活用できるハイブリッド量子系のアプリケーションとしての可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、当初の計画通り、量子メディア変換として光子から13C核スピンへの量子テレポーテーションを実証した。 具体的な手法は、電子スピンと核スピンを超微細相互作用によってもつれさせたうえで、電子軌道とスピンがスピン軌道相互作用によりもつれた準位へ光子が吸収される事象を取り出し(もつれ吸収)、条件付きの量子テレポーテーションを行うものである。我々の研究グループが以前に開発したもつれ吸収は、無磁場環境下でスピンが縮退した状況で成り立つ手法である一方で、縮退したスピン1/2の炭素核スピンを制御することが非常に困難であった。これを解決するために、電子スピンに隣り合う窒素核スピンを偏極させ、実効的な局所磁場を電子スピンに与える手法を開発した。磁場によって電子スピンの縮退準位が分裂することで、制御磁場の周波数選択による炭素核スピンの制御およびもつれ生成が可能となった。 量子メディア変換後の炭素核スピンのX軸方向射影成分は入力光子の偏光角に依存して変動し、量子情報は正しく炭素核スピンに転写されていることを確認した。それぞれ用意した±X,Y,Zに対応する6つの入力量子状態の変換過程の忠実度は古典限界である66%をすべてで上回っており、量子状態(情報)に依存しない完全な量子過程であることを示した。 加えて、NV中心近傍に多数存在する炭素核スピンの同時制御に向けて、常時稼働する相互作用を打ち消すダイナミカルデカップリングの手法を理論的に考案し、実験で実証した。この技術は、量子中継の目的だけでなく、量子センシングという新しいアプリケーションにおいても有用である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で得られた量子メディア変換の忠実度劣化はもつれ生成忠実度の劣化が起因しており、独自に開発したダイナミカルデカップリング技術を組み込むことやGRAPEアルゴリズムによる制御パルスの最適化を行うことで改善される。 次年度は忠実度を上げることに加えて、ダイナミカルデカップリングを主軸とした複数核スピンの制御技術を確立し、集積炭素核スピン量子メモリーとしての利用を実現する。NV中心電子スピンと炭素核スピン間にはスピン間距離と配置によって決まる磁気的な超微細相互作用が働き、炭素核スピンはそれぞれ異なる速さで歳差運動を行う。これは時間とともに電子スピンと無数の炭素核スピンがもつれて量子系のコヒーレンスが散逸してしまうことを意味するが、独自に開発したダイナミカルデカップリングによって動的に相互作用を切り、コヒーレンスを保持することが出来る。ここで、ラジオ波帯の交流磁場を印可すれば、共鳴する炭素核スピンだけが個別に回転し、選択的な相互作用を生み出される。実験では、2個以上の炭素核スピンに電子スピンからコヒーレントにアクセスし、電子スピンを介して2炭素間の相関を操作するC-NOTゲートを実装することを目指す。
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