2017 Fiscal Year Annual Research Report
健康寿命の延命を指向した先制医療のバイオマーカーと介入療法の開発
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17J11624
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
今福 匡司 熊本大学, 薬学部, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 酸化ストレス / アルブミン翻訳後修飾 / 脂質 / 腎臓病 / 糖尿病 |
Outline of Annual Research Achievements |
超高齢化社会に突入した本邦では、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義した「健康寿命」の延伸を重要な課題の1つとして位置づけており、先制予防への積極的な取り組みを推奨している。このヘルスケアにおける重要課題を解決できれば、高齢者も活き活きと活躍できる社会を実現することができるようになると考えられる。よって、私の研究の最終的な目標は、健康寿命の延伸に貢献するために、先制的予防に有効な病態の早期診断マーカーの探索と日常生活から予防できる介入療法を確立することである。そのためにまずは、高齢者に多く成人の8人に1人が発症している国民病である慢性腎臓病(CKD)を対象にして研究している。 酸化ストレスは高齢者や患者で高く、種々の病態発症の原因として位置づけられる。言い換えれば、この酸化ストレスをモニタリングすることにより、病態の早期発見が期待できる。私は以前の研究で、質量分析装置(ESI-TOF MS)により検出可能なヒト血清アルブミン(HSA)のシステイン付加体の割合が、酸化ストレスマーカーとして有用であることを見出し、HSA翻訳後修飾体の解析が先制的予防に有効な病態の早期診断マーカーになると考えている。これまでの検討で、肝障害や腎障害の発症や進行に応じてシステイン付加体が増大しており、早期診断マーカーとしての有用性を示している。 さらに、腎臓は全身の恒常性を維持する代謝臓器であるため、多くのエネルギーを必要し、脂肪酸の代謝が活発な臓器である。しかしながら、腎臓領域における脂質の質の違い(リポクオリティ)研究は他の組織と比較して遅れている。よって、腎障害時の脂肪酸組成変動を解析し、そのメカニズムを明らかにすることで脂質の種類に応じたCKD抵抗性の介入療法を考案できると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、透析導入の主要な原疾患の1つである糖尿病性腎症の予測因子として、HSA翻訳後修飾体の解析が有用であるのかを検討した。また、糖尿病は患者数が多いものの、合併症の診断については未だに良いマーカーが確立していない点からも、本研究は重要な研究である。私が確立した測定法では、システイン付加体と同時に糖尿病の臨床診断に用いられるグリコアルブミンも同一ピーク上で検出できる。そのため、酸化ストレスと糖化ストレスのどちらが重要であるかについても比較検討することが可能である。その結果、腎症のステージが進行するにしたがってHSAの翻訳後修飾体の割合が変動し、質量分析による翻訳後修飾体のモニタリングは早期診断に有効である可能性が示唆された。 さらに脂質に関する研究では、腎毒性のある抗がん剤のシスプラチンを用いた急性腎症モデルを作製し、腎障害時における腎組織中の脂肪酸組成変動をガスクロマトグラム質量分析装置(GC-MS)にて確認した。また、この変動を制御する因子として脂肪酸代謝酵素に着目した。実際に、腎障害時には腎組織中の代謝酵素の発現が変動していた。さらに、この脂肪酸代謝酵素の発現は酸化ストレスマーカーであるタンパク質過酸化物(AOPP)濃度と正の相関関係が観察された。つまり、酸化ストレスによって代謝酵素の発現が亢進し、毒性の強い脂肪酸が増加することで腎障害の増悪に関与している可能性を見出した。また、この結果は5/6腎臓を摘出した慢性腎症モデルでも同様に観察された。
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Strategy for Future Research Activity |
翻訳後修飾体の早期診断マーカーへの応用については、当初の予定通り高齢者に多い疾患で検討を行い、最終的には健康診断患者のHSAにおける翻訳後修飾解析の意義についてエビデンスを増やしたいと考えている。さらに、HSAには疾患との関係性が解明されていない多様な翻訳後修飾が存在しているため、疾患毎の修飾傾向がないかのプロファイルも行う。これら患者のサンプルについては共同研究を行っている医師との連携が良好であり、研究を円滑に進めることができている。 脂質研究については、酸化ストレスによる腎組織中の脂肪酸組成変動が病態形成に関与している可能性を見出した。よって、次は介入療法を確立するために日常生活で誰もが行う営みである食事に注目している。近年、出生前後の栄養状態が成熟後の病態の発症率に影響するというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)説が重要視されており、栄養と病態の関係が注目されている。脂肪毒性を抑える報告がある不飽和脂肪酸、特に医薬品としても上市している多価不飽和脂肪酸(PUFA)を多く含む餌を腎障害モデルマウスに処置前から与えることで、毒性の強い脂肪酸の増加による腎障害を抑制し得るかを検討する。
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