2017 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of a mechanism of coordinating Interbirth-interval of great ape
Project/Area Number |
17J40025
|
Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
久世 濃子 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | オランウータン / 大型類人猿 / 妊娠 / 繁殖 / 授乳 / 動物園 / ホルモン / 骨盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
行動学的研究については、野生個体および飼育個体を対象とした資料収集を継続した。野生個体を対象とする調査は、2005年から長期調査を行っている、ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレイ自然保護区において、共同研究者や現地調査助手と共に、資料収集を継続した。平成29年5月、8月、11月、計3回45日間マレーシアに渡航し、サバ州都コタキナバルにおいて調査許可と査証の更新、ダナムバレイにおける野外調査等を行なった。調査期間中に1頭の初産雌が2016年に出産したと推定される第一子を初めて観察したが、経産雌の妊娠・出産は1例も観察されなかった。これにより、ダナムバレイでの出産間隔は6年を超える(7年以上)であることが確定的になった。 日本国内の動物園で、直接観察と夜間映像の記録をもとに、授乳行動を分析する研究については、共同研究者らの協力のもと、多摩動物公園および旭山動物園で3組の母子を対象に資料収集を行った。 骨盤の妊娠出産痕(経産女性に特徴的な耳状面前部の圧痕)が、類人猿でも見られるのではないか、という仮説を検証する為、骨格標本を対象とした形態学的調査を行った。日本学術振興会若手研究者交流事業スイス枠に採用されたので、2017年12月~2018年3月にスイスのチューリッヒ大学に滞在し、同大やヨーロッパの博物館に収蔵されている大型類人猿のコレクションを調査した。耳状面前部の圧痕発生頻度の種間差を示す十分なデータを収集することができたが、これらの圧痕の形成要因に妊娠出産が関与している可能性は低いと考えられた。 国際的な学術雑誌に投稿する為に、2本の共著論文を執筆し、日本霊長類学会、日本哺乳類学会、日本人類学会などで研究発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成31年度にヨーロッパの博物館や大学に所蔵されている大型類人猿の骨格標本の調査を行う予定だった。しかし、日本学術振興会若手研究者交流事業(スイス枠)に採用され、平成29年12月~平成30年3月の3ヶ月間、チューリッヒ大学人類研究部門に在籍し、計画を前倒しして調査をすすめることができた。 同大が所有する世界トップクラスの類人猿骨格標本や、スイスのバーセル自然史博物館やベルギーの王立中央アフリカ博物館など、ヨーロッパな主要な類人猿コレクションも調査することができた。 またチューリッヒ大学のホスト研究者であるCarel P. van Schaik博士やMaria van Noordwijk博士らとのディスカションにより、ダナムバレイのオランウータンの妊娠と果実生産量の関係を分析した研究についても論文執筆を進めることができた。さらにvan Noordwijk博士らと、複数の調査地で収集された信頼性の高いデータのみを用いて、オランウータンの繁殖パラメーター(初産年齢、出産間隔、死亡率)を調べた研究についてまとめ、2018年4月にJournal of Human Evolution誌に投稿し、現在査読中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
野生個体を対象とした行動学的調査については、2018年中に経産雌が妊娠する可能性があり、引き続き観察を続ける予定である。 飼育個体については、平成30年度より、対象の母子ペアを増やすことを計画している。 尿中のホルモン代謝物を測定し、行動観察の結果を補足する生理学的研究を行う為、平成29年度以降、行動学的研究の対象である野生及び飼育個体から、尿サンプルを収集している。平成29年10月に京都大学野生動物研究センターにて、尿中ホルモン代謝物(C-peptide:インスリン代謝物で栄養状態の指標)の平行試験と回収試験を行ったが、信頼性の高い測定値を得ることができなかった。実験の手技のミス、現地や輸送中のサンプルの保管状態に問題があり、サンプルが劣化した可能性が考えられた。29年度末に、保管・輸送時の状態を改善して新しい尿サンプルを輸入したので、30年度はこのサンプルを測定する予定である。 形態学的研究については、ヨーロッパでの調査により、耳状面前部の圧痕発生頻度の種間差を示す十分なデータを収集することができたが、これらの圧痕の形成要因に妊娠出産が関与している可能性は低いと考えられた。今後は類人猿にもヒト同様に耳状面前部の圧痕があり、発生頻度に種間差があることを立証する論文を執筆する計画である。 ダナムバレイのオランウータンの妊娠と果実生産量の関係を分析した論文も執筆をすすめ、平成30年度半ばまでにPrimates誌に投稿予定である。また平成30年10月に神奈川県で開催されるThe 19th Conference of the International Society for Research in Human Milk and Lactation(国際母乳哺育学会)で、飼育個体を対象とした、安定同位体比を用いた離乳過程の解明について、共同研究者と発表する予定である。
|