2018 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of a mechanism of coordinating Interbirth-interval of great ape
Project/Area Number |
17J40025
|
Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
久世 濃子 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | オランウータン / 大型類人猿 / 妊娠 / 繁殖 / 授乳 / 動物園 / ホルモン / 骨盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヒト科における出産間隔を調整するメカニズムを解明する為に、オランウータンを中心とする大型類人猿の母親が、授乳行動を変えることで出産間隔を調整している可能性を検討することが目的として、行動学的および形態学的手法を用いて研究を行った。行動学的研究については、野生下および飼育下で資料収集を継続した。野生個体を対象とする調査は、2005年から長期調査を行っている、ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレイ自然保護区において、共同研究者や現地調査助手と共に、行った。平成30年5月、9月、10月、および平成31年3月の計4回23日間マレーシアに渡航し、代表者自身も野外調査を行なった。2019年2月には、5年ぶりに経産雌(2011年に第1子を出産)が妊娠していることを観察できた。しかしそれ以外の経産雌に関しては、平成31年3月まで妊娠の徴候が見られなかった。 日本国内の動物園(多摩動物公園および旭山動物園)で、2組の母子を対象に、直接観察と夜間映像の記録をもとに、授乳行動を分析する研究を継続した。 骨盤の妊娠出産痕(経産女性に特徴的な耳状面前部の圧痕)が、類人猿でも見られるのではないか、という仮説を検証する為、骨格標本を対象とした形態学的調査も継続し、耳状面前部の圧痕の発生頻度の種間差を追認できた。また、ヒトの腰痛(仙腸関節痛)が起きるメカニズムについて研究している技術者と議論した結果、圧痕の形成要因について新たな仮説をたてることができた。 国際的な学術雑誌で2本の共著論文を発表し、日本霊長類学、日本哺乳類学会、国際母乳哺育学会等で発表した。またオランウータンの生態や行動に関する日本語の単著を出版し、大手新聞社や学会誌などに書評が掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は共著論文を2本出版し、国内学会で2件、国際学会で1件、国際シンポジウムで1件の発表を行い、計4回海外調査を行うことができた。平成30年度の特筆すべき成果としては、オランウータンに関する日本語の総説(単著)を2018年7月に出版したことである。自身の研究成果だけでなく、遺伝学や生態学、形態学など幅広い分野の研究から得られた最新の知見をわかりやすく紹介することを試み、大手新聞社や週刊誌、関連学会誌などの書評欄で取り上げられた。 行動学的研究については、平成31年3月のマレーシア調査で、一部の樹種が開花しはじめており、令和元年7~8月に一斉結実が起きる可能性が高まっていることが確認できた。一斉結実による果実生産量の増加に伴って、令和元年の間に調査対象の雌達が妊娠出産する可能性が高く、今年度は10年に一度しか収集できない貴重なデータを得られる可能性が高い。 生理学的研究については、平成30年度中は尿中性ホルモンの測定実験は行うことができなかったが、ヒト用排卵検査薬(黄体形成ホルモンのピークを検出できる)の導入をすすめている。オランウータンでもヒト用排卵検査薬が有効であることが確かめられれば、飼育下での繁殖管理や、野生下での繁殖研究にも大いに役立つことが期待される。 形態学的研究については、当初の仮説である「大型類人猿にも妊娠出産痕がある」という仮説は否定されたが、耳状面前部の圧痕の発生頻度に明確な種差がある(ゴリラで高く、オランウータンで低く、チンパンジーはその中間)ことを発見した。平成30年度には、ヒトの腰痛(仙腸関節痛)が起きるメカニズムについて研究している技術者と議論した結果、圧痕の形成要因について新たな仮説をたてることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)行動学的および生理学的研究:平成30年度以前から調査を行っている、野生個体および飼育個体を対象とした資料収集を継続する。野生個体については、2005年から長期調査を行っている、ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレイ保護区において、共同研究者や現地調査助手と共に、資料収集を継続する。7組の母子を対象に、可能な限り毎月、追跡調査を行い、授乳行動の観察を行う。また日本国内の動物園(多摩動物公園と釧路市動物園)で、直接観察と夜間映像の記録をもとに、授乳行動を分析する。 京都大学野生動物研究センターにて、野生下及び飼育下収集した尿サンプルについて、尿中ホルモン代謝物(性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの代謝物、および栄養状態の指標となるインスリン代謝物C-ペプチド)の測定を行う。さらにヒト用排卵検査薬を飼育下および野生下で用いて、現場で即時に排卵の有無を測定することを試みる。本年度は、5月および7月と9月以降に計4回マレーシアに渡航し、調査許可を更新すると共に、現地で集めた尿サンプルを日本へ輸出する。 (2)形態学的研究:今まで調査の結果、耳状面前下部における圧痕発生頻度の種間差示すのに十分なデータを集めることができた。今年度は大型類人猿の体重に関するデータを収集し、モデルやシミュレーション等を使って、耳状面前下部にかかる負荷について検証することで、圧痕の形成要因を考察し、発生頻度の種間差を報告する論文としてまとめる予定である。 (1)および(2)の成果を、日本霊長類学会、日本人類学会等で発表する。また昨年度より執筆しているダナムバレイのオランウータンの妊娠と果実生産量の関係を分析した論文を完成させ、9月までに霊長類学の国際的な学術雑誌Primatesに投稿する。
|