2018 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代フランスの文化政策と「現代性」の概念の確立
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17J40097
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
山本 友紀 日本女子大学, 人間社会学部 文化学科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 美術におけるフランス性 / 1930年代フランス / レアリスム |
Outline of Annual Research Achievements |
松井裕美氏、磯谷祐介氏とともに国際シンポジウム「20世紀視覚芸術・文学における前衛的レアリスム(1914-68年)」(9月28日~29日、名古屋大学)を開催した。当シンポジウムは歴史的な観点から「前衛」と呼ばれた動きの重層性を明らかにし、「後衛」との関係性を問い直すことを狙いとしたもので、3名の基調演者のロミー・ゴラン、サラ・ウィルソン、セゴレーヌ・ルメンに加え、国内外の9名の研究者、および企画者3人による発表では、多様な時代・芸術家・テーマにおけるレアリスムが論じられ、改めて「前衛」と呼ばれる芸術動向のダイナミズムが浮き彫りとなった。 このシンポジウムでは、「Between Realism and Abstraction: Dual Interpretation of Cubism in the Interwar Period」と題して英語で口頭発表を行った。この発表では、アメリカで活躍したプレシジオニズムと呼ばれた芸術家たちの言説や作品を読み解きながら、フランスを発祥地とするキュビスムがアメリカという環境においてどのように解釈され、アメリカにおける芸術の発展にいかに寄与したのかについて論じたものである。プレシジオニストのスタイルの進展は、第一次世界大戦の混沌と破壊的状況の後に起こった、古典的傾向、機械時代の「秩序への回帰」の動向という国際的な文脈の中に位置づけられる。本発表では、プレシジオニストのスタイルとコンセプトの基礎となるその機械時代の美学と語彙の重要性を検討し、アメリカ独自の伝統と機械時代との間の親縁性を考察した さらに、坂田一男についての論文は、レジェに師事した坂田一男のフランスでの制作活動をキュビスムとピュリスムとの関係から詳細に論じており、山本氏の専門であるフェルナン・レジェについての精緻な研究によっても裏付けられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年4月から6月にかけては、出産直後の「研究再開準備支援」期間を設けたため、研究活動は限定的なものとならざるを得なかったが、その間にも資料の整理を行い、調査出張の計画を立てた。夏季休暇期間中にはフランスに調査出張し、一次資料の収集を重点的に行った。 また、自ら企画・開催にも関わった国際シンポジウムでは、大戦間期のキュビスムの受容の状況について、異なる芸術環境を持つフランスとアメリカとの間でそれぞれ独自の解釈がなされたことをプレシジオニストと呼ばれたアメリカの芸術家たちを中心に英語で発表した。この研究は国外において調査・収集した一次資料の綿密な検証に基づくものである。これは研究テーマの一つに据える「フランス美術史再編成に伴う〈フランス性〉の概念」についての新たな見解を付け加えている。この美術における「フランス性」の概念はまた、今後の研究テーマである近代美術館が誕生する経緯にも関係していると考えられ、今後の研究を進めるうえでも有意義な視点をもたらしている。 これらの点から、現在までの研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでの研究の成果も踏まえて、「現代美術のコレクションの形成」と「近代美術館創設」の考察を行う予定である。そのための準備段階としての一次資料の収集・整理している最中である。さらに必要な資料の収集を行うために、夏季休暇中にはフランスでの調査を計画している。 これらの資料に基づき、立場の異なる美術関係者たちの美術史観を美術における「現代性」をめぐる問題の延長線上に位置づけ、その関係について検討したうえで、人民戦線政府のもとで始まった同時代美術のコレクション形成の経緯を調査し、パリ博と同時に完成した、近代美術館と第二次世界大戦後に開館した際の美術館との間における「現代美術」像の相違を考察する予定である。
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