2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J40117
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Research Institution | Japan International Research Center for Agricultural Sciences |
Principal Investigator |
小田(山溝) 千尋 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 生物資源・利用領域, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 環境ストレス / クロロフィル / シグナル伝達機構 / ABAシグナリング |
Outline of Annual Research Achievements |
深刻な地球温暖化や干ばつによる農地の悪化が進み、現在でも人口の10.9%に当たる9人に1人が慢性的な栄養不足であると言われている。飢餓に直面している人たちのほとんどが暮らす地域では、自然に頼った農業を行っているため環境条件が食料の生産に大きな影響を与える。そこで本研究では、環境ストレスにおける光合成色素の役割を明らかにし、厳しい条件下でも生育できる植物のクロロフィル量およびカロテノイド量を制御することで、単位面積あたりの収量や栄養価を高めた環境ストレス耐性作物を作出する技術の構築および食糧増産を目指す。昨年度中に、ABAシグナリングをほぼ完全にブロックして乾燥耐性を喪失したシロイヌナズナ変異体が、通常生育条件下では野生株の約1.5倍量のクロロフィルを蓄積し、ABA培地上で生育させた植物のクロロフィル分解が顕著に抑制されることを明らかにした。また、ABA培地で生育させた変異体では、野生株と比較してクロロフィル生合成遺伝子群およびクロロフィル結合タンパク質合成遺伝子の発現抑制に有意な差は認められなかったが、クロロフィル分解関連遺伝子群の発現上昇が抑制されていたことから、ABAシグナリングとクロロフィル分解経路に何らかの関係がある可能性が示された。この知見を元に本年度は、複数のクロロフィル分解関連遺伝子の発現を制御する転写因子の変異体を用いて、環境ストレス応答におけるクロロフィル蓄積制御の役割を探索した。本変異体は、乾燥ストレス処理による萎れが野生株よりも顕著に遅延しており、乾燥ストレス耐性が向上している可能性が示された。乾燥処理後の植物体からRNAを抽出してマイクロアレイ解析を行った結果、野生株と比較して、乾燥ストレス応答性遺伝子の発現上昇が認められ、これらの遺伝子群が効果的に稼働することで乾燥ストレス耐性が向上したと考えられた。現在、論文の投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度中に、ABAシグナリングをほぼ完全にブロックして乾燥耐性を喪失したシロイヌナズナ変異体を用いた解析により、ABAシグナリングとクロロフィル分解経路に何らかの関係がある可能性を見出した。この知見を元に、本年度は複数のクロロフィル分解関連遺伝子の発現を制御する転写因子の変異体を用いて、環境ストレス応答におけるクロロフィル蓄積制御の役割を探索した。クロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制された本変異体は、乾燥ストレス処理による萎れが野生株よりも顕著に遅延しており、乾燥ストレス耐性が向上している可能性が示された。また、乾燥処理後の植物体からRNAを抽出してマイクロアレイ解析を行った結果、野生株と比較して、乾燥ストレス応答性遺伝子の発現上昇が認められ、これらの遺伝子群が効果的に稼働することで乾燥ストレス耐性が向上したと考えられた。現在、これらの研究結果をまとめて、論文を投稿する準備中である。本年度中には論文を投稿する予定だったが、準備中にとどまっているため、期待ほどではなかったが、共著論文が3報受理され、さらに現在投稿中の論文が2報あることから、概ね順調に進展していると考えている。また、クロロフィル分解だけでなく、クロロフィル生合成が環境ストレス応答に与える影響を検証するため、複数のクロロフィル生合成酵素遺伝子に共通して結合する転写因子の変異体や過剰発現体の準備を整えるなど、予定よりも進行したものもある。これらの組換え体を用いた解析は、次年度に行う予定にしている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は複数のクロロフィル分解関連遺伝子の発現を制御する転写因子の変異体を用いて、環境ストレス応答におけるクロロフィル蓄積制御の役割を探索した。クロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制された本変異体は、乾燥ストレス処理による萎れが野生株よりも顕著に遅延しており、乾燥ストレス耐性が向上している可能性が示された。また、乾燥処理後の植物体からRNAを抽出してマイクロアレイ解析を行った結果、野生株と比較して、乾燥ストレス応答性遺伝子の発現上昇が認められ、これらの遺伝子群が効果的に稼働することで乾燥ストレス耐性が向上したと考えられた。次年度の早いうちに、これらの成果をまとめた論文を投稿し、次年度中には受理されるようにする予定である。 また、クロロフィル分解だけでなく、クロロフィル生合成が環境ストレス応答に与える影響を検証するため、複数のクロロフィル生合成酵素遺伝子に共通して結合する転写因子の変異体や過剰発現体の準備を本年度中に完了した。次年度は、これまでに作出したクロロフィル代謝変異体のシロイヌナズナを用いて、環境ストレス応答におけるクロロフィル蓄積制御の役割を検証する。
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