2019 Fiscal Year Annual Research Report
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17J40216
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Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
吉良 智子 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 人形 / ジェンダー / 国際文化政策 / 工芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
人形を用いた日本の文化政策、つまり戦時における国民精神動員からの地続きとしての戦後の国際文化政策を考察した。 前近代以来の成人男性が楽しむ人形文化は、「美術/芸術」の枠組みからの疎外・吸収を経て、女児文化としての近代的人形観と交渉を重ねてきた。その結果、芸術という枠組みでは官展への進出を果たし(人形芸術運動)、販路としては百貨店という近代的商業システムの中で生き残った。また戦前の国際的対外交流として名高い「青い目の人形」交流は、それらを制作・先導したのは従来の職人的人形にかかわっていた男性であり、女性作家らにとってはきわめて厳しい隘路だった。 戦後アメリカ占領下の日本は食糧支援の「見返り物資」として、工芸品をアメリカ向けに戦略的に制作・輸出する計画が国家主導で立てられた。そこで推奨された輸出工芸品はいわゆる日本観光土産のような通俗的商品ではなく、伝統的工芸技術に基づいた漆器などを主体とした作品だった。人形というジャンルそのものは「見返り物資」とのひとつとして推奨されたが、戦前において成人男性らが確立・享受した「美術/芸術」的人形は対象からはずされ、かわって小児向けのセルロイド製人形が採用された。アドバイザーを務めたGHQの女性将校は、百貨店のデザイナーという経歴を背景に、西欧的ジェンダー観に基づき商業的成功が期待できる小児用玩具を選定したためであった。 男性らが築き上げた彼らの趣味としての「美術/芸術」的人形は、対外的文化戦略構想から排除された。彼らの「人形」は戦後工芸界の再編のなかで新たに創造された「伝統」に回収される。これ以降彼らの人形が対外的文化戦略の場で大きな脚光を浴びることはほとんどなかったといってよい。その意味において戦前に彼らが制御・交渉の対象としてきた女性性を帯びた人形観は、大量生産大量消費社会の中で彼らにとってある種の脅威となったといえる。
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Research Progress Status |
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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