2018 Fiscal Year Research-status Report
左右反転立体音響を用いた人間の環境適応性の脳機能解析
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17K00209
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
青山 敦 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 准教授 (40508371)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 神経科学 / 脳・神経 / 脳情報学 / 脳機能計測 / 多感覚統合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,左右の聴空間が反転した特殊環境をウェアラブルに創出し,その環境への持続的な接触下での脳活動を追うことで,人間がもつ環境適応機能のメカニズムに迫ることである.平成30年度には,平成29年度に行った左右反転立体音響の特性評価と段階的順応現象の追試の結果に基づいて,左右反転立体音響における視聴覚統合モデルの獲得と定着の検討を引き続き行った.具体的には,実験参加者がこの特殊環境に対して約1ヶ月間にわたって接触していた際に取得した脳計測データの解析を進めた.平成29年度と同様に脳計測は,左右いずれかに出現する視覚手掛かりと音の組み合わせに対して一致か不一致かを実験参加者が弁別する視聴覚照合課題,および積極的な弁別をしないように別課題を行う視聴覚サイモン課題下で行われた.両課題における左右の一致と不一致に対する脳活動を比較したところ,視聴覚照合課題でのみ,約1週目で生じる主観的な違和感の減少と相関する誤差伝播に固有な脳リズムの変容,約2週目で生じる手指の応答性の遅れと相関する意思決定に固有な脳リズムの増大などが観測された.よって,空間情報に関する明示的な視聴覚統合は約1週目から段階的に新たな統合モデルに従うようになるが,潜在的な視聴覚統合は通常の統合モデルに従い続け,遅れて新しい統合モデルの影響を受けるようになる可能性が支持された.また新しいモデルと通常のモデルの切り替えが必要な状況下における視聴覚統合モデルの選択と利用の検討から,約2週目でモデル選択を誤りやすくなることが分かりつつある.特殊環境から通常環境へと戻した際の還元過程やその後の再順応過程に注目することで,視聴覚統合モデルの消失と再獲得についての検討も始めており,平成31年度の研究に備えることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間の2年目である平成30年度においては,当初の予定通り,ウェアラブルデバイスを用いて構築した左右反転立体音響への約1カ月にわたる接触過程を多角的に調べ,視聴覚統合モデルの獲得と定着の詳細な検討を行った.特に明示的な視聴覚統合が生じる視聴覚照合課題と潜在的な視聴覚統合が生じる視聴覚サイモン課題に対する脳計測データの解析を進め,行動と脳活動の双方の側面から両統合の相違を明らかにできた.また,新しい統合モデルと通常の統合モデルの切り替えが必要な状況を創出し,視聴覚統合モデルの選択と利用についても併せて検討を行うことができた.更には,左右反転立体音響の聴空間から通常の聴空間へと戻した際の還元過程や左右反転立体音響の聴空間へと再移行した際の再順応過程を調べることによって,視聴覚統合モデルの消失と再獲得についても検討を始めることができた.研究計画の通り,その詳細な検討は平成31年度に引き続き行う予定である.人間がもつ環境適応機能のメカニズムを解明する上で重要な知見が得られたことから,平成30年度の計画は概ね順調に実施できたと言える.
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度においては,平成30年度に得られた予備的な知見に基づいて,左右反転立体音響の聴空間から通常の聴空間へと戻した際の還元過程や左右反転立体音響の聴空間へと再移行した際の再順応過程を引き続き調べ,視聴覚統合モデルの消失と再獲得の詳細を明らかにする予定である.必要に応じて,視聴覚統合モデルの選択と利用についても併せて検討を行う.また,視聴覚統合モデルに関する知見の一般性を検証するために,手指に関する特殊触空間を実現し,この空間への接触過程における視触覚統合モデルの動態を調べて,視聴覚統合モデルの動態と比較する.ただし,この特殊触空間への接触期間や方法は,実験が可能な範囲で状況に応じて調整する.最後に,これまでに得られた全ての知見に基づいて,人間の環境適応機能のメカニズムを総合的に考察する.脳機能計測手法については,目的や使用機会に応じて適宜選定し,当初の研究計画通りに進める.
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Causes of Carryover |
学事スケジュールの関係で,平成29年度において生じた次年度使用額で予定していた国際学会に参加することができず,次年度使用額が生じた.次年度使用額については平成31年度において,研究を促進するための物品費,学会参加のための旅費や参加費として使用することを計画している.
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Research Products
(3 results)