2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K00216
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
生塩 研一 近畿大学, 医学部, 講師 (30296751)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 時間知覚 / 前頭葉 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、あたかも脳内にストップウォッチがあるかの如く、1秒や2秒という時間の長さを区別できる。しかし、脳がどうやって時間長を処理しているのかほとんど分かっていない。これまでに行われてきた実験では、時間はアナログ的な物理量であるにもかかわらず、時間長を長短で二者択一させる課題が支配的で、時間長を単に長短に分類するデジタル的な情報処理過程を調べるにとどまっていることが多い。そこで申請者は、アナログ的な情報処理に近付けるべく、3つの時間長を区別する実験課題で取り組んでいる。また、時間は視覚や聴覚といった刺激の感覚種に依存しないが、時間長の実験では、視覚刺激のみや聴覚刺激のみといった、特定の感覚種を実験に使うことがほとんどであった。申請者は、時間長の情報処理の本質を調べるため、視覚と聴覚の両方を使った実験にも取り組んでいる。脳活動の記録は、個々のニューロン活動について発火時刻を詳細に記録するユニットレコーディングを採用している。2018年度は、2017年度に開始した時間3分割課題での背内側前頭皮質のニューロン活動の計測を引き続き行った。背内側前頭皮質は前頭葉にある脳領野で、ヒト以外の霊長類で時間長の情報処理に関わっていることを示した論文がある(Marchant et al., 2014, 2015)。申請者は以前、補足運動野(SMA)のニューロン活動を記録した。背内側前頭皮質の運動前野はそもそも運動に強く関連しているが、補足運動野の下流にあたる脳領域であり、時間情報処理にも関わっている可能性は高い。2018年度の実験を通して、徐々にデータが溜まってきた。実験装置の不具合が多く、実験が進められない時期もあったので、過去に取得していた、視覚刺激と聴覚刺激の両方を使った実験データの解析も進めた。研究成果は、学会発表として2件行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
時間3分割課題の実験方法は、2017年度の報告書にも記載したのでここでは割愛する。2頭のニホンザルから、課題に関連するニューロン活動を多数記録できた。視覚刺激の開始から1秒くらいで一時的な発火を示すニューロンは、発火頻度がピークを示す時間は視覚刺激の開始から1.1秒を中心に分布していた。短い時間長では1.0秒前後の時間長を提示しており、このタイミングで視覚刺激が消えるかどうか、つまり、短い時間長の視覚刺激をフィルタリングしているニューロンが背内側前頭皮質にあると考えられる。他にも、そのフィルタリングの結果を記銘するかのように引き続く遅延時間に発火頻度が高くなるニューロンや、逆に、中程度や長い時間長の視覚刺激の後の遅延時間に発火頻度が高くなるニューロンもあった。これまでに記録した背内側前頭皮質では、応答性の特徴としては一時的に発火頻度が高まるニューロンが多く、また、時間長としては短い時間長カテゴリに応答するニューロンが多い傾向にあった。視覚と聴覚の両方を使った実験では、2つの時間長のうち長い方を選択させるのに、1つ目を視覚刺激、2つ目を聴覚刺激といった具合に、別の感覚種で時間長を表現している。視覚刺激どうしの試行もある。前頭前野のニューロン活動を調べたところ、聴覚刺激より視覚刺激に反応するニューロンの方が多く、また、発火頻度も視覚刺激のときの方が高い傾向にあった。特定の感覚種に反応したり、特定のタイミングで反応したりするなど多様性に富んだニューロンも見出された。視覚刺激と聴覚刺激への反応の違いから、前頭前野では時間だけを抽出した処理がなされるのではなく、感覚種に依存した処理に関わっている可能性があると考えている。2018年7月の日本神経科学大会では、時間3分割の実験データを、2019年3月の日本生理学会大会では、視覚刺激と聴覚刺激の両方を使った実験で得られたデータを発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の実験で、背内側前頭皮質でも多数のニューロンが時間長の弁別に関わることが分かったので、2019年度以降も、ニューロン活動記録実験を通してさらなるデータの収集に努めながら、刺激呈示期間・遅延期間・選択期間などでのニューロンの発火頻度の変化や刺激呈示時間とのパラメトリックな関係性を解析し、どんな活動パターンを示すニューロンがどれくらいの比率あるかなど、より詳細なデータ解析を進める。2019年度は、実験機器の不具合を修復させながら実験を進める。また、実験機器が完全に機能しなくなった場合に、実験機器の入れ替えを想定したスケジュールを組んで実験に臨む予定である。更新する機器としては、すでに調査して計画段階に入っており、一部の機器も購入しているので、あまり遅滞なく実験環境の復旧ができると見込んでいる。その解析結果を元に時間長の弁別における背内側前頭皮質の機能的役割を検討する。また同じ実験課題で前頭前野からも記録する。また、前頭前野のニューロン活動を記録するチェンバーから、線条体からの記録も開始する。線条体は前頭葉との関連性が強く、前頭葉の機能的役割を検討する際に重要な脳領域である。また、感覚種に依存しないニューロン活動もデータ解析を中心に調べる予定である。それらのデータからの時間長の弁別における前頭葉の機能的役割を、運動前野や前頭前野のニューロン活動から検討し、また、線条体などとの相互のシステム的関係性の観点からも分析する。ニューロン活動記録実験が終了したサルは、トレーサーを用いた種々の標識法により、記録部位ニューロン等の解剖学的結合性を調べる。何らかの事情によりニューロン活動記録実験が当初の計画どおりに進まない場合には、これまでに得られたニューロン活動の解析を進める。実験により得られた知見は、学会発表や論文などで公表に努める。
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Causes of Carryover |
初年度(2017年度)より、毎日の実験のセットアップ時や実験中に、経年劣化と思われる機器のちょっとした不具合が出始めていた。制御用コンピュータ、課題制御ソフト(TEMPO SYSTEM)、マニピュレーター、信号増幅用アンプ、マルチスパイクディテクタ用コンピュータ、マルチスパイクディテクタ用ソフトなどの設備を早々に交換することが予想されるため、繰越額を計上していた。しかし、トラブルに見舞われながらも、その都度修復することで実験続行が不可能とはならずに済んだ。2018年度も消耗品の使用を慎重に行い、必要最小限の使用に抑えることで、来年度以降に拠出が見込まれる予算を確保すべく繰越額を残した。使用計画としては、不具合が大きくなれば、今年度に実験機器を買い替えるために繰り越した予算を使用する。もし実験機器を買い替える必要がなければ、実験を潤滑に進めるべく、消耗品への拠出を中心とした予算執行を行うこととする。
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