2017 Fiscal Year Research-status Report
内的なゆらぎを駆動力とする効率的な学習システムの構築
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17K00338
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
寺前 順之介 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (50384722)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松尾 直毅 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (10508956)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 脳 / 機械学習 / 自発活動 / 記憶 / 局所回路 / 海馬 / シナプス結合 / シナプス可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究分担者は、マウスの背側海馬CA1領域へのウイルスベクターの局所微量注入により、カルシウムセンサータンパク質であるGCaMP6fを海馬CA1錐体細胞に発現させることに成功し、標的脳領域部位にグリンレンズを埋め込み、超小型内視型蛍光顕微鏡を頭部に設置することで、自由行動下での恐怖条件付け学習の前後の自発神経活動のデータを5匹のマウス個体より得ることに成功した。このデータは、現在、研究代表者が予備的な解析を実施中である。また研究代表者は、大脳皮質の自発活動の基盤となるシナプス結合の詳細な構造について理論解析を行い、強いシナプス結合を介して互いに結合するネットワークモチーフと呼ばれる特徴的な神経細胞間の結合が、近年注目されている機械学習の一種であるdenoising autoencoderによって説明できることを発見した。denoising autoencoderはノイズを受けた入力信号を、ノイズがない状態に再構成することを目的とする機械学習の一種である。この研究では、このdenoising autoencoderと同様に、入力刺激に対する神経細胞応答のノイズに対する頑健性を増すように大脳皮質神経細胞間のシナプス結合を学習させることで、実験的に報告されている大脳皮質局所回路の結合特性の多くが整合的に説明できることを示した。特に、ネットワークモチーフの詳細な分布の説明に成功し、強いシナプス結合が作る特徴的なスモールワールド・ネットワーク結合の存在を理論的に示唆する結果を得た。さらに、実際のシナプス可塑性に近い学習則の検討を行い、多様なネットワーク構造に適用可能な新たな学習則の提案にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画全体の研究目的である自発活動を適応的に変化させそれを利用して効率的な脳型情報処理を実現するメカニズムを解明するためには、脳型のシナプス可塑性に近い学習則と、実際の脳のシナプス結合特性と何らかの機械学習の学習則の関連を明らかにする必要があると考えられる。また実験的には、動物の経験に依存した神経活動の安定した計測を可能にする実験技術を確立する必要がある。今年度の研究成果は、いずれもこれらの研究目的に必要な各課題に極めてよく合致するものであり、研究開始初年度の研究成果としては、極めて順調な研究成果を得ているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究成果に基づき、以下の研究課題に優先的に取り組むことを計画している。まず研究分担者によって計測された実験データの数理的な解析を実施する。特に、記憶形成前、記憶形成時、記憶想起時、記憶非想起時などの神経活動を定量的に比較することで、記憶形成前の自発的な神経活動が、動物の経験に依存してどのように変化し、さらにそれが神経回路のどのような変化に起因すると推定できるのかを検討する。同時に、実際のシナプス可塑性に近い脳型の学習アルゴリズムのさらなる検討を行い、実験データからの知見と合わせることで、脳内で自発活動がどのように制御され、記憶形成や学習に利用されているのかを明らかにすることを試みる。また、今後得られると想定される自発的なゆらぎを利用する学習則の理論解析や性能評価への寄与を想定し、当初の研究計画で予定していたように、学習時に探索すべき状態空間や目的関数の構造の数理的な研究実施も試みる。
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Causes of Carryover |
平成29年度の研究において、実験技術開発とシナプス結合の特性に関する理論研究が順調に進んだため、神経ネットワークや機械学習における大規模な数値計算よりも、理論解析と実験技術開発を優先して行うことができた。このため、当初計画で初年度での購入を予定していた計算機および計算機ソフトウェアの購入を平成29年度に実施しなかったことが次年度使用額が生じた主たる理由である。平成30年度の計画では、データ解析や数値シミュレーションに当初計画通り、大規模な数値計算が必要になると期待できるため、平成30年度請求分と合わせて必要な計算機等の購入と行う予定である。
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[Journal Article] Computational Neuroscience: Mathematical and Statistical Perspectives2018
Author(s)
Kass Robert E.、Amari Shun-Ichi、Arai Kensuke、Brown Emery N.、Diekman Casey O.、Diesmann Markus、Doiron Brent、Eden Uri T.、Fairhall Adrienne L.、Fiddyment Grant M.、Fukai Tomoki、Gr?n Sonja、Harrison Matthew T.、Helias Moritz、Nakahara Hiroyuki、Teramae Jun-nosuke、et.al
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Journal Title
Annual Review of Statistics and Its Application
Volume: 5
Pages: 183~214
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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