2018 Fiscal Year Research-status Report
ラット型ロボットの頭脳としての内側側頭葉神経回路モデルに関する研究
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17K00344
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
立野 勝巳 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (00346868)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 内側側頭葉 / 海馬 / 嗅内皮質 / 嗅周皮質 / 痕跡恐怖条件づけ学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はプロジェクト1「大規模な内側側頭葉モデルによる痕跡恐怖条件づけ学習」として、Hodgkin-Huxley型神経細胞モデルによる内側側頭葉モデルの作製と、プロジェクト2「タスク学習検証プラットフォームの作製」として、Izhikevich型神経細胞モデルによる内側側頭葉モデルの作製を行なった。 プロジェクト1では、H29年度に引き続き、CA3神経回路モデルにおける時間細胞の研究を行った。CA3錐体細胞と抑制性細胞を合わせて約3000個の神経細胞により、神経回路モデルを構成し、セル・アセンブリのダイナミックな遷移を考慮することで、時間細胞様の特性を再現するシミュレーションとなった。CA3神経回路モデルの時間細胞に関する結果は、国際会議FENS2018において、ポスター発表した。 プロジェクト2では、内側側頭葉モデルの並列計算プログラムを作製した。内側側頭葉モデルは、嗅周皮質・嗅内皮質・海馬を含む回路である。海馬は場所細胞を、嗅内皮質は格子細胞と時間細胞を有する。嗅周皮質はcue刺激を持続するcue-holding細胞を有する。タスクとして、交代迷路課題の一つである8字迷路課題を設定し、仮想上のラットが迷路内を移動すると仮定し、頭方位と速度情報を内側側頭葉モデルに入力することで、結果的に海馬に経路依存場所細胞が形成できた。この内側側頭葉モデルは、Graphics Processing Unit(GPU)を用いたGPUコンピューティングにより、高速にシミュレーションできる。 加えて、小型移動ロボットとGPU搭載計算機をBluetoothで接続し、リアルタイムにやり取りできる環境を整えた。ロボットの頭方位と移動速度をGPU搭載計算機内の内側側頭葉モデルに入力し、リアルタイムに計算できる。H30年度は、内側側頭葉モデルとして、より簡素な積分発火型モデルで構成した神経回路を採用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H30年度は、内側側頭葉のHodgkin-Huxley型詳細モデル(プロジェクト1)と簡素化モデル(プロジェクト2)の作製に分けて研究を進めた。プロジェクト2はおおむね順調に進展したが、プロジェクト1が遅れているので、全体的には「やや遅れている」と判断した。 プロジェクト2においては、タスク学習検証プラットフォームの作製として、小型移動ロボットの作製と内側側頭葉モデルの高速並列計算を予定していた。内側側頭葉モデルとして、嗅周皮質・嗅内皮質・海馬を接続した神経回路ができ、GPUコンピューティングを用いた並列計算により、シミュレーションを高速に実行できるようになった点は、予定通りの進捗である。また、内側側頭葉モデルにおいて、移動経路に応じて生成される場所細胞である経路依存場所細胞を再現できており、刺激と場所を関連させる恐怖条件付けに必要な内部表現ができた点も予定通りの進捗である。 タスク学習検証プラットフォームとして小型移動ロボットを作製し、GPU搭載計算機と無線通信できるようにした。移動ロボットの頭方位と速度情報は計算機内の内側側頭葉モデルに入力され、シミュレーションが実行される。この点も予定通りの進捗である。内側側頭葉の簡素化モデルの作製と、移動ロボットと計算機の接続が予定通りに進んだことから、プロジェクト2については、おおむね順調に進展していると評価した。 プロジェクト1のHodgkin-Huxley型の詳細モデルを用いて大規模な内側側頭葉モデルを作製する計画において、海馬神経回路と嗅周皮質のlate-spiking細胞は作成済みである。海馬神経回路に錐体細胞のセル・アセンブリを仮定することで、神経活動の伝播が時間細胞様の活動になることを確認できた点は順調な進展であるが、一方で、嗅内皮質の神経細胞モデルの作製が進んでいない。このことからやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、プロジェクト1「内側側頭葉モデルによる痕跡恐怖条件付け学習」とプロジェクト2「タスク学習検証プラットフォームの作製」の成果を踏まえて、プロジェクト3「タスク学習プラットフォームを用いた学習の実施」を実施する予定である。プロジェクト3においては、小型移動ロボットの頭方位情報、速度情報、センサー信号をGPU搭載計算機内の内側側頭葉の簡素化モデルで処理し、行動を決定する仕組みを作製する。決定された行動は、移動ロボットにフィードバックされる。 移動ロボットの各種情報を無線通信によりGPU搭載計算機に入力し、痕跡恐怖条件づけ学習を実施する予定である。条件刺激として匂いを、無条件刺激として熱源もしくは電気刺激を想定している。条件刺激と無条件刺激の間に一定の遅延時間を設けても条件付けが成立するようにする。また、ガスセンサーからの匂い情報を内側側頭葉モデルへ入力するために、神経パルス列に変換する必要がある。センサー出力から神経パルス列への変換には、別途作製中の神経回路を用いる。 内側側頭葉モデルは、場所やオブジェクトの学習は行えるものの、行動決定の学習ができない問題があるため、前頭前皮質モデルと結合し、行動学習が行えるようにする。前頭前皮質モデルとして、強化学習を用いて学習できるスパイキング神経回路モデルを別途作製しているので、それを内側側頭葉モデルと結合し、状況に応じた行動決定を行う。決定した行動を移動ロボットにフィードバックする。 一方で、プロジェクト1において取り組んでいるHodgkin-Huxley型の内側側頭葉モデルにおいて、海馬歯状回と嗅内皮質の作製が遅れているので、引き続き、Hodgkin-Huxley型の顆粒細胞モデルと星状細胞モデルの作製に取り組む予定である。Hodgkin-Huxley型の内側側頭葉モデルにおいても、痕跡恐怖条件付けが成立する条件を調べる。
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Causes of Carryover |
ラット型移動ロボットの部品代として計上した経費が当初予定より少なかったため、次年度使用額が生じた。これは、まだ開発段階で電子回路やロボットの筐体に変更の可能性があるため、移動ロボット上の回路は変更が可能なブレッドボードを用いて設計したり、安価な部品を選択して必要最小限で作製したためである。令和元年度が最終年度であるので、移動ロボットの搭載部品や筐体を確定させ、より堅牢に作製するための費用として次年度使用額を利用する予定である。 加えて、最終年度は移動ロボットを用いて実環境にて学習課題を遂行するため、移動ロボットの搭載部品だけでなく、課題を実行するための環境(迷路の作製材料など)も併せて整備する必要がある。 また、シミュレーション補助、およびロボット作製の補助業務が増加することが予想されるため、研究協力者への謝金としても使用する予定である。
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Research Products
(1 results)