2019 Fiscal Year Research-status Report
ラット型ロボットの頭脳としての内側側頭葉神経回路モデルに関する研究
Project/Area Number |
17K00344
|
Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
立野 勝巳 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (00346868)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | スパイキングニューラルネットワーク / 内側側頭葉 / 海馬 / 8字迷路課題 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、プロジェクト1「内側側頭葉モデルによる痕跡恐怖条件付け学習」とプロジェクト2「タスク学習検証プラットフォームの作製」の成果を踏まえ、プロジェクト3「タスク学習プラットフォームを用いた学習の実施」を行った。 学習によって適切な移動方向を選択するためには、内側側頭葉モデルだけでは不十分であったので、行動決定用ニューラルネットワークを追加し、場所に応じた移動方向を学習する仕組みを取り入れた。行動決定用ニューラルネットワークもスパイキングニューラルネットワークで構成した。内側側頭葉モデルの神経活動を行動決定ネットワークと接続し、8字迷路課題において適切な行動を学習できるようにした。ドーパミン、およびアセチルコリンに依存して変化するスパイクタイミング依存シナプス可塑性を取り入れることで、報酬信号と内側側頭葉の神経活動を結び付けて学習ができるようになった。特に、8字迷路課題は、場所細胞と時間細胞の神経活動を結び付けた経路依存場所細胞が必要な課題で、経路依存場所細胞の活動と適切な移動方向を関係づけて学習する仕組みを取り入れた。 昨年度までの5000個程度のネットワーク規模であれば、実時間で計算できるよう並列プログラムを作成していたが、より大規模なニューラルネットワークが計算できるよう、GPUプログラムを改良し、より大規模なニューラルネットワークを実時間で計算できるようにアルゴリズムを改善した。 小型移動ロボットを用いた課題の学習の実施には至っていないが、小型ロボットを実空間内で動作させて、その頭方位と移動速度の情報をニューラルネットワークに入力し、格子細胞が形成されることを確認した。小型ロボットからの情報による誤差が大きく、適切な格子細胞の形成が阻害されていたが、小型ロボットの制御の仕組みを修正することで適切な格子細胞が得られるようになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、主に簡素化モデルによる内側側頭葉モデルの作成を進め、小型ロボットを使った実環境での学習に取り組んだ。内側側頭葉モデルは格子細胞、場所細胞、時間細胞を含み、かつドーパミンとアセチルコリンによるシナプス可塑性の特性を変化させる機構を取り入れるなど進展した。これらの特徴的な神経細胞や機構を組み込んだ内側側頭葉モデルに、行動を学習するニューラルネットワークを付加することで、計算機シミュレーションにおいては、訓練によって8字迷路課題を遂行できるようになった。この内側側頭葉モデルと行動決定のニューラルネットワークは、スパイキングニューロンによって構成した。また、内側側頭葉モデルのさらなる大規模化のため、さらに高速な並列計算ができるようアルゴリズムを修正した。これによって、より規模の大きなニューラルネットワークを実時間で計算できるようになった。この点は予定通りに進めることができた。 一方で、GPU搭載計算機上のスパイキングニューラルネットワークと小型移動ロボットを結合し制御する計画では、2019年度中に小型移動ロボットを用いた実際の環境で課題を訓練するところまでを予定していたが、十分に達成できなかった。小型ロボットを不規則に移動させて、GPU搭載計算機上のニューラルネットワーク内に格子細胞を作成することはできるようになった。計算機シミュレーションでは8字迷路課題を学習できるようになったが、これを実機に搭載する場合の時間細胞の調整などの問題があり、実機での試験には至らなかった。 Hodgkin-Huxley型の内側側頭葉モデルにおいて、海馬歯状回と嗅内皮質の作成が遅れているので、引き続き、 Hodgkin-Huxley型の顆粒細胞モデルと星状細胞モデルの作成に取り組む必要がある。このことからやや遅れていると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、プロジェクト3「タスク学習プラットフォームを用いた学習の実施」を実施する予定である。小型移動ロボットの頭方位情報、速度情報、センサー信号をGPU搭載計算機内の内側側頭葉の簡素化モデルで処理し、行動を決定する仕組みを構築する。ニューラルネットワークで決定された行動指令を小型ロボットにフィードバックし、小型ロボットはそれに従って移動するような仕組みを構築する計画である。このGPU搭載計算機と小型ロボットの双方向の通信の仕組みを実現したうえで、小型ロボットが実環境で行動しつつ痕跡恐怖条件付けを学習できるようにする。 小型ロボットに痕跡恐怖条件づけを学習をさせるために、次のことを実施する予定である。各種センサー情報を無線通信によりGPU搭載計算機に入力する仕組みを用意する。条件刺激として匂いを想定している。ガスセンサーで検出した匂い情報を内側側頭葉モデルへ入力するために、神経パルス列に変換する仕組みを用意する。無条件刺激として、空間の画像情報を用いる予定である。2次元バーコードや特定画像により無条件刺激が与えられるような仕組みとする。そのため、カメラで検出した刺激をニューラルネットワークに取り入れる仕組みを用意する。小型ロボットとGPU搭載計算機内のニューラルネットワークを接続した上で、小型ロボットを部屋の中を移動させ学習を進める。痕跡恐怖条件付けでは条件刺激と無条件刺激の間に一定の遅延時間を設けられても学習が成立する必要があり、これには時間細胞の特性を活用する。 プロジェクト1で取り組んでいるHodgkin-Huxley型の内側側頭葉モデルにおいて、海馬歯状回と嗅内皮質の作成にも引き続き取り組む予定である。そのなかで、Hodgkin-Huxley型の内側側頭葉モデルにおいても、痕跡恐怖条件付けが成立する仕組みを調べる。
|
Causes of Carryover |
ニューラルネットワークおよび小型ロボットの作製が遅れたため、予定していた国際会議への参加ができなかったことで予定していた旅費および参加費の支出が予定通りではなかったことと、コロナウイルス感染拡大の影響のため年度末の出張を自粛したため、次年度使用額が生じた。 令和2年度の予算は、小型ロボットの整備、および研究成果の発表に使用する予定である。小型ロボットの整備では、センサー類など消耗品の購入を計画している。また、小型ロボット、および実験環境の整備として、謝金を支給して作製を依頼することも予定している。研究成果の発表では、論文投稿のための英文添削費用と投稿費用が必要である。現時点で海外への出張は難しい状況であるが、可能であれば国内で開催される会議、もしくはオンラインで開催される会議において研究成果を発表することを予定している。
|
Research Products
(3 results)