2021 Fiscal Year Research-status Report
天然変性領域の動態を考慮したヒトSTINGの新規リガンド探索と活性化機構の解明
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17K00405
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
土屋 裕子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (30557773)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シミュレーション / 創薬 / 天然変性領域 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然免疫において重要な役割を担うStimulator of interferon genes(STING)タンパク質の活性化機構の解明は、抗がん剤やワクチンの免疫賦活化剤などの創薬のみならず、STINGの過剰活性化による自己免疫疾患や加齢に伴う細胞の癌化の発症機構解明にも有用な情報を与える。 STINGは細胞が感染した際に生成されるリガンドを結合することにより、そのシグナルを下流に伝えインターフェロンβ産生を促す。この時C末端に存在する天然変性領域のリン酸化を導くことが明らかにされている。しかし近年STINGのアミノ酸変異によりリガンド非結合状態および非リン酸化状態で恒常的なインターフェロンβ産生が生じ、重篤な自己免疫疾患を導くことが明らかにされた。 アミノ酸変異によりリガンド結合部位およびリン酸化部位の立体構造は大きく変化しないことから、変異によるシグナルはダイナミクスの変化により生じると推測される。本研究では、リガンド結合や変異導入によるSTINGのダイナミクス変化の解析に基づき、STINGの恒常的活性化のメカニズム解明を行う。 2021年度はこれまでに開発を行ったアミノ酸変異やリガンド結合が導くタンパク質の微細な揺らぎの変化を抽出する手法(Tsuchiya et al, JCIM, 2019)の精度検証のため、リガンド結合が導くGタンパク質共役受容体(GPCR)の活性化メカニズム解明に応用した。リガンド結合および非結合型GPCRのシミュレーションデータを用いて訓練した深層学習法を用い、GPCR-細胞内Gタンパク質複合体の解析を実施したところ、リガンド結合により変化する細胞内Gタンパク質認識に関わるGPCRアミノ酸の揺らぎ変化を抽出することができた(Tsuchiya et al, SciRep, 2021)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに開発したアミノ酸変異やリガンド結合が導くタンパク質の微細な揺らぎ変化を抽出する手法(Tsuchiya et al, JCIM, 2019)の精度検証のため、本手法をリガンド結合が導くGタンパク質共役受容体(GPCR)の活性化メカニズム解明に応用した。初めにリガンド結合および非結合型GPCRのシミュレーションデータを用いて深層学習法オートエンコーダーを訓練し、これを用いてGPCR-細胞内Gタンパク質複合体の解析を実施したところ、訓練データには細胞内Gタンパク質との結合に関する情報が含まれていないにも関わらず、Gタンパク質認識に関わるGPCRアミノ酸の揺らぎ変化を抽出することができた(Tsuchiya et al, SciRep, 2021)。この結果は本手法のSTINGタンパク質等への応用が可能であることを示唆しており、2021年度はSTINGへの応用(特に、電子顕微鏡構造を含む最新の立体構造情報や疾患関連の論文の調査)を開始した。またCurrent Opinion in Structural Biologyのレビュー執筆に招待され、STINGを含む免疫系タンパク質の深層学習やシミュレーション研究の最近の動向を発表した(Taneishi and Tsuchiya, 2021)。
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Strategy for Future Research Activity |
STINGタンパク質のリガンド結合による活性化状態、アミノ酸変異によるリガンド非結合状態での恒常的活性化状態と、野生型のダイナミクスの比較により、細胞が感染した際の自然免疫活性化のメカニズムとアミノ酸変異による自己免疫疾患発症のメカニズムの解明を目指す。ダイナミクスの比較には2019年度に開発した手法 (Tsuchiya et al, JCIM, 2019)を基に、より複雑な系に対応可能な深層学習法を新たに構築する。新規手法およびバイオインフォマティクスやシミュレーション等の実行により上述のメカニズム解明を行い、治療薬およびワクチン開発に資する知見を得ることを目標とする。
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Causes of Carryover |
2022年度に論文発表および学会発表を予定しており、これらに使用する。
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