2018 Fiscal Year Research-status Report
肺音中の副雑音の分離技術と統計的モデル化手法を融合した肺疾患者識別手法の研究
Project/Area Number |
17K00408
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
松永 昭一 長崎大学, 工学研究科, 教授 (90380815)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
酒井 智弥 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (30345003)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 生体音 / 肺音 / スパースモデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の研究では、肺音の時系列に対して、各時刻の音響特徴をパラメータ(ベクトル)として抽出し、隠れマルコフモデル(HMM)を用いて、異常肺音と正常肺音として学習を行った。その音響特徴を学習したモデルを用いて、異常肺音と正常肺音の識別、さらにその結果(異常肺音と正常肺音としての尤度)を用いた疾患者と健常者の識別の研究を行ってきた。本研究の困難さは肺疾患の病状、疾患の箇所、被験者の年齢や体格により、異常肺音中に含まれる副雑音と呼ばれる異常音の音響特徴が多様であることであり、また聴診時には多くの雑音が混入することにある。そのため副雑音の音響特徴をモデル化するためには多くの学習データを必要とすることが問題であった。一方で、学習データに医師等の専門家による副雑音の正確なラベル付けが要求されるため、学習データを大きく増やすことは難しかった。 そこで本研究では、スパースモデリングにより聴診音から連続性の音響特徴を持つ成分(具体的には呼吸音と連続性の副雑音)と断続性の特徴を持つ成分(具体的には断続性の副雑音)の信号として分離した二つの音信号を用いることにより、少ない学習データの状況でも異常音と正常音をより高精度に識別する方式を検討した。また、その方式の効果を確認するために識別実験を複数の代表的な聴診箇所で行った。また、近年、ニューラルネットを用いた識別方式が大きな進歩を遂げている。そのため、従来のHMMではなくニューラルネットとスパースモデリングを融合した肺音検出方式の検討を開始した。またスパースモデリングを用いて断続性及び連続性の音を抽出する方式は他の生体音の識別にも応用できると考えられるため、乳児の泣き声から情動を推定する課題に適用しその効果を確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)スパースモデリングを用いた副雑音(連続性副雑音と断続性副雑音)の抽出に関しては、副雑音区間とそれ以外の呼吸音区間のパワー比の変化を比較することで、概ね抽出できていることを確認した。また、波形とスペクトルの目視による検証も行った。その結果、連続性副雑音の立ち上がり部分を断続性副雑音として誤検出する場合があることを確認した。また、心音やパルス性の雑音等が分離した信号に残るため、今後の対応が必要であることがわかった。次に、従来、スパースモデリングを適用していた聴診箇所が限られていたため、聴診箇所を増やして副雑音の抽出を行った結果、一部の聴診箇所ではその効果を、異常肺音と正常肺音の識別実験において確認できた。しかしながら、心音が混入する箇所等、その効果を確認できない聴診箇所も存在するという課題が明らかになった。そこで、あらかじめ肺音中に混入する(検知できる)心音の割合を推定し、その混入の頻度が高ければ心音に関する統計モデルを用い、そうでなければ用いないという手法と組み合わせる効果について検討している段階である。以上の進捗状況であるため、概ね順調に進展している。 2)スパースモデリングを用いて連続性と断続性の音を分離する際に、フーリエ成分とコサイン成分のパラメータを事前に与えているが、これをニューラルネットにより学習する枠組みを作成し、さらにその学習した特徴パラメータを用いて、正常肺音と異常肺音を後段のニューラルネットにより識別する枠組みを作成できた。このことにより、正常肺音と異常肺音の識別を最大化するように特徴パラメータを学習することが可能となる。現在は、前段の特徴量の学習の可能性を示せた段階である。これは当初の計画より若干進展している。 1),2)より全体では概ね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
スパースモデリングを用いた異常肺音と正常肺音の識別における概ねの処理の流れの設計を平成30年度までに行うことができたため、今後はその枠組みで学習と評価を実行できるようにする必要がある。主な研究項目の推進方策は以下である。 1) スパースモデリングを用いた副雑音に特有の音響特徴の抽出に関して-----まず、多様な肺音に関して、連続性の音響特徴を持つ信号と断続性の音響特徴を持つ信号に効率よくかつ頑健に抽出できるフーリエ成分とウェーブレット成分のパラメータについて検討する。次に、連続性副雑音の立ち上がり部分を断続性副雑音として誤検出する問題の解決方法を検討していくとともに、元の聴診音に含まれている心音等の雑音が分離した信号に残されるため、心音の混入に頑健なスパースモデリングの検討を行う。 2) 識別方式と音響パラメータの設定に関して-----これまでは、スパースモデリングを適用して、連続性の音響特徴を持つ信号と断続性の音響特徴を持つ信号に分離し、その二つの信号を用いて異常肺音の識別をHMMを用いて行った。今後は、事前にフーリエ成分とウェーブレット成分のパラメータを与えるのではなく、ニューラルネットを用いた機械学習の枠組みを用いて、異常肺音と正常肺音の識別能力、及び連続性の副雑音を含む異常肺音と断続性の副雑音の識別能力が最大化できるようなフーリエ成分とウェーブレット成分のパラメータを求める枠組みとし、またこの識別系をいろいろな聴診箇所から聴取した肺音に関して適用を試みる。 3) 肺音データの拡張に関して-----これまで、主に同一箇所から収録した肺音データを用いて学習してきた。本研究では、学習データ量の増加は避けられないため、他の聴診箇所から収録したデータを適切に利用する(選択する)ことにより、識別性能の高精度化を狙う。
|
Causes of Carryover |
本科研費を用いた平成29年度、及び平成30年度の前半の研究の進展があり、その結果、比較的レベルの高い国際会議に2件採択され、それを発表する旅費が必要となり、平成30年度の最も大きい支出となった。そのため予定していた高精度なパソコン2台の購入ができず、1台の購入となったため次年度使用が生じた。 次年度は早い時期に必要なパソコンを購入する予定である。
|