2017 Fiscal Year Research-status Report
一細胞の複雑な形状に基づく器官・組織動力学モデルのシミュレーション研究
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17K00410
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
石本 志高 秋田県立大学, システム科学技術学部, 准教授 (30391858)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | コンピュータシミュレーション / 細胞・組織・器官 / 発生・分化 / 粘弾性 / データ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞集団である上皮組織中の一細胞の形状、すなわち細胞境界の形状は、細胞内力学装置であるアクトミオシン複合体の複雑な粘弾性特性の影響を強くうけ、時間スケールごとに振る舞いが異なることが実験的に示されている。この現象を力学モデルに反映するに先立ち、多くの研究論文で実験との比較に利用されてきた細胞頂点モデル、および我々が開発している泡・頂点モデルに関して、組織レベルにおける時間スケールごとの力学的ふるまいを明らかにするため、約140パターンのパラメータを用いた計算機粘弾性実験を実行した。これにより両者の振る舞いが異なることを見出し、複数の学会にて発表した。モデルの差異は主に一細胞の形状変化に起因するため、一細胞の形状というミクロな変化が組織レベルの物性に反映されることを数値計算上ではあるが明らかにした点で、重要な知見を与えた。 先行研究で構築したショウジョウバエ翅形成力学モデルでは、器官・組織の境界を、異なる曲げ弾性率をもつ弾性体と仮定し、内部を静力学的な粘性流体で満たされるとした。本研究の初年度では、さらにこのモデルから泡・頂点モデルへの移行を目指しつつ、細胞頂点モデルへの実装を行った。即ち、翅内部を細胞頂点モデルで満たし、組織外形部分に特徴的な曲げ弾性を付与し、弾性率プロファイルによって組織・器官外形が有意に変化する結果を得た。これらの成果をまとめ、査読付き論文誌にて出版した。 また、当初の研究実施計画では明示されていなかった研究として、新見氏(ヘルシンキ大学)、ニックス氏(秋田県立大学)らと共に、蛹期の翅におけるシグナル分子の時空間動態と器官形成の関係を明らかにするための基本物理モデルを構築し、新見氏らの実験的研究と並行してシミュレーション研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画されていた通り、実際の細胞境界が時間スケールごとに異なる振る舞いを示すことに着目し、一細胞レベルの形状および複雑さをある程度表現していると考えられる我々の多細胞動力学モデルに関して、多数の計算機粘弾性実験を実行し、より精緻なモデル構築に向けての研究を推し進めた。また、先行研究で構築したショウジョウバエ翅形成力学モデルを拡張発展させ、飛翔昆虫の翅外形を対象とし、一細胞形状を反映できる細胞頂点モデルにおいて実装したものも含め、論文として出版した。この研究成果は泡・頂点モデルへの移行を目指したもので、論文出版によって当初計画よりも大幅に進捗したといえる。 当初の研究計画では最終的な発展方向として示すのみで、研究実施計画では明示されていなかった研究として、前出の新見氏(ヘルシンキ大学)、ニックス氏(秋田県立大学)らとの研究を行った。蛹期の翅におけるシグナル分子の時空間動態と器官形成に関する研究である。器官形成中のシグナル分子(モルフォゲン)は細胞増殖や分化を制御する非常に重要な生体情報であるが、多くの場合において単純な側方拡散が仮定されてきた。今回我々はより具体的な3D物理シミュレーションを構築し、シグナル分子の物理的な側面と生物学的な器官形成の綿密な関連を研究している。この研究成果の一部を学術論文誌に投稿予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画通り、細胞形状のもつ時間スケール依存の動力学的な実験事実を基に、泡・頂点モデルの保持できる力学情報および動力学を刷新し、細胞境界の複雑な形状を時系列情報と共に表現できるものへと拡張する。この拡張には、マウス嗅上皮の特異な形状を含むことを想定している。翅形成力学モデルに関しては、泡・頂点モデルを利用したものへと拡張を行い、併せて以下に示す実験的なデータとの突合を進める。計算機資源を拡充し、より高精度なモデルの構築およびシミュレーションによる検証作業を同時並行で進める。 多細胞集団、特に我々が主なターゲットとしている単層上皮組織に関して、基礎的な動力学実験データが少ない。また、我々が構築した翅外形モデルに関してもその生物学的な形成動態も含めて、ショウジョウバエ以外のデータが不足している状態である。連携研究者らの協力を仰ぎつつ、上皮細胞の粘弾性データを収集し、微少な飛翔昆虫に関する翅形成データの収集に関しては、研究代表者自身が行うことも視野にいれる。ショウジョウバエ翅形成実験データに関しては、今年度より、国際共同研究加速基金による4Dデータ解析およびシミュレーション研究を進める予定であり、これと協調して、本研究課題を進めていく。 上記の進捗に合わせて、研究成果を積極的に国内外にて発表する。
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Remarks |
研究内容の紹介は現在研究室HPにて一部公開し、さらなる公開に向けて準備中。
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Research Products
(15 results)