2018 Fiscal Year Research-status Report
Reconstruction of Public Library Theory Based on Social Justice
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17K00447
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
吉田 右子 筑波大学, 図書館情報メディア系, 教授 (30292569)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川崎 良孝 京都大学, 教育学研究科, 名誉教授 (80149517)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 社会的公正 / 公共図書館論 / 公共図書館史 / アメリカ公共図書館 / 北欧公共図書館 / フィンランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では新自由主義の進行による図書館の公共的価値の後退を問題化し、これを解消するための基礎理論構築のために、以下に示すとおり調査研究を行なった。 (1)アメリカ公共図書館モデルの確立史 アメリカ公共図書館モデルの史的変遷を歴史資料に基づき、公共図書館の原初モデルから公立図書館モデルの確立までを精査した。これは本研究における参照モデルとしてのアメリカ公共図書館モデルを総合的に分析したことになる。さらに本課題「社会的公正を基軸とした公共図書館論の再構築」について、現在、新たに図書館研究では、ホワイトネスへの関心が高まっており、その開拓者的にして最も重視されるトッド・ホンマの論文を翻訳した。これはまさに図書館・図書館界における「公正」の問題を歴史的かつ現在への問題提起も兼ねて考察した論文である。 (2)アメリカ公共図書館モデルの変容 20世紀後半から21世紀にかけて起る公共図書館原則の揺らぎの時代を対象に新自由主義/市場原理主義に基づく経営モデルに公立図書館が取り込まれ、無料、公開、公費支弁の三原則が後退していく経緯を検討した。alternative public librariesという新たな公共図書館モデルを導入し、アメリカ公共図書館モデル/伝統モデルに対置させることで、21世紀の新たな公共図書館モデルの可能性について検討した。 (3)フィンランド図書館の実態調査 全世界的に新自由主義に基づく図書館経営モデルが優位となるなかで、公費支弁の公共図書館の運営原則を維持してきた北欧の公共図書館の中でも、文化政策過程への公的介入強度が高いフィンランドに焦点を当てて、公共図書館の現地調査を通して公的文化制度の浸透を実証的に解明した。2018年8月中旬にヘルシンキおよび近郊地域において13館の図書館を訪問し、7名の図書館職員にインタビューを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に設定した研究計画に基づいて研究が着実に行われている。1年目に着手した3本の研究課題(1)アメリカ公共図書館モデルの確立史、(2)アメリカ公共図書館モデルの変容、(3)北欧型公共図書館モデルの制度的枠組み、2年目に着手した(4)フィンランドの公共図書館についての実証的検証について、それぞれ研究が進展している。研究計画すべてについて予定通り研究が進行しており、最終年についても最終課題である公共図書館モデルの再構築について、研究成果が期待されるため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のまとめとなる研究発表をCoLIS10(The Tenth International Conference on Conceptions of Library and Information Science, Ljubljana, Slovenia, in June 2019)で発表し、海外の研究者と新たな21世紀の公共図書館モデルに関して議論を行い、その成果を最終年の研究に反映させる。 1年目と2年目の研究成果に基づき、研究課題(フェイズ1アメリカ公共図書館モデルの確立史、フェイズ2アメリカ公共図書館モデルの変容、フェイズ3北欧型公共図書館モデルの制度的枠組み、フェイズ4 フィンランド図書館の実態調査)を統合し、公共図書館が新自由主義/市場原理主義への対抗機関となる社会的に公正な文化施設としてコミュニティに存立するための成立条件を、20世紀アメリカ公立図書館モデルに再照準化して明らかにすることで、最終目的である公共図書館モデルの再構築を行いつつ、公正な文化装置としての公共図書館の成立条件を解明する。
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Causes of Carryover |
共同研究者を含む本研究に関わる研究者との打ち合わせを対面で行わず電話やメールで行うことが可能であったため、国内旅費の予算に余剰が生じた。また当初計上していた海外の関連文献に関して、ウェブサイトから情報を入手することができたため、予定していた書籍代の予算に余剰が生じた。また人件費に計上していた業務を研究者が行ったため、その分の経費がかからなかった。今年度は最終年度に当たり、研究成果発表のために各費目ともに支出が予定されている。
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