2017 Fiscal Year Research-status Report
海氷の一生が引き起こす熱と塩・淡水の再分配と輸送のグローバルな推定
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17K00530
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Research Institution | Tomakomai National College of Technology |
Principal Investigator |
二橋 創平 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 准教授 (50396321)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 極域 / 海氷 / 沿岸ポリニヤ / 海氷生産 / 海氷融解 / 高密度水生成 / 塩分フラックス / 淡水フラックス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、海氷による熱と塩/淡水フラックスのグローバルな推定である。沿岸ポリニヤでは、盛んな結氷に伴い大量の高塩で低温の高密度水が排出される。この高密度水の沈み込みは、気候システムの最重要構成要素の一つである海洋の熱塩循環に重要な役割を果す。またこの沈み込みにより、大気中の熱や二酸化炭素等の物質が海洋深層へと運び込まれる。以下に示す本年度の研究実績は、この高密度水生成のプロセスを理解する上で重要である。 マイクロ波放射計AMSR2による衛星観測データを用いて、南極海の沿岸ポリニヤ域を検出し、その薄氷厚を見積もるアルゴリズムの開発を行った。そしてその薄氷厚を用いた熱収支計算から、海氷生産量を見積もった。AMSR2の先代センサーであるAMSR-Eによる生産量と組み合わせることにより、2003年から10年間以上の高空間分解の海氷生産量データを作成することができる。しかし残念ながらAMSR2とAMSR-Eは観測期間が重なっていないので、生産量を直接比較することができない。そこで、空間分解能が劣るが両センサーの観測期間をカバーするマイクロ波放射計SSM/I-SSMISによるものとの比較を介して、AMSR2の生産量とAMSR-Eによるものとの比較をおこない、AMSR2とAMSR-Eのデータによる南極海沿岸ポリニヤ域の高空間分解海氷生産量データの作成を行った。 日本海北部の沿岸ポリニヤ域における海氷生産量を、AMSR-Eによるデータを用いて見積もった。実は日本海でも高密度水が生成されているが、ここでは海面での強い冷却により生成されていると考えられていた。しかし本研究の結果から、高海氷生産に伴うブラインの排出も高密度水生成に効いている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海氷の結氷・移流・融解に伴う熱・塩フラックスの推定を南極海で試みた。沿岸ポリニヤ域における盛んな海氷生産に伴う塩分排出の見積もりには、大気―海洋間の熱フラックスを決める薄氷の厚さが効いてくる。一方、海氷融解に伴う淡水供給の見積もりには、海氷融解量を知る上で海氷の厚さが効いてくる。従って熱塩フラックスの推定には、海氷の厚さが鍵になる。薄氷に関しては、これまでに作成してきた人工衛星に搭載されるマイクロ波放射計AMSR-Eによるものを用いた。より厚い海氷の厚さはマイクロ波放射計データから推測することは不可能なため、新たにレーザー高度計ICESatによる衛星観測データを用いた。海氷生産量(塩分排出量)は、薄氷厚を用いた熱フラックス計算に基づいて推定した。計算のインプットデータとしてERA-Interimによる気象データを用いた。海氷融解量(淡水供給量)は、海氷の移流の効果を考慮した海氷の減少量から推測した。現状で海氷生産量と融解量は同じオーダーで見積もられているが、融解量の方が倍近く多く見積もられている。これはおそらく移流の効果の推定に問題があるためと考えられる。 ICESatデータを用いた氷厚推定を、オホーツク海で行った。オホーツク海では、氷厚を観測に基づいて全海氷域で示した研究はこれまでに存在していない。氷厚の分布は、沿岸ポリニヤが形成される北西陸棚域や北部陸棚域で薄く、海氷の動きが収束場になるサハリンの北側や北海道沿岸で厚いことが示された。また氷厚の年々変動が大きいことも示された。これは冬季におけるアリューシャン低気圧の位置の変化に伴う風向の違いにより生じていると考えられる。さらにオホーツク海の主要な沿岸ポリニヤで形成される海氷生産量と、氷厚から推定される海氷の総量が対応することも示された。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き南極海で熱・塩フラックスの推定を行っていく。海氷の量は、移流によっても変化する。海氷の漂流速度は、マイクロ波放射計による時間的に連続した衛星データを用いることにより、面相関法から見積もることができる。この漂流速度を用いることにより、移流による海氷の増減を考慮して、海氷の融解量を見積もる。衛星観測による漂流速度は、ブイ等による現場観測のものと比較・検証し、見積もられる融解量の精度向上を図る。さらに北半球でも同様な熱・塩フラックスの推定を行っていく。これまで、衛星観測による薄氷厚を用いた海氷生産量の見積もりは、北極海、南極海、オホーツク海で行われてきている。しかし、薄氷厚推定のアルゴリズムが海域毎に異なっていた。このことは熱フラックスをグローバルスケールで見積もる上で問題点となる。アルゴリズムが異なる原因として、薄氷の種類が効いている可能性が示されている。そこで、薄氷の種類を考慮して、どの海域でも使用可能な統一薄氷厚推定アルゴリズムの開発を行う。 南極や北極の沿岸には定着氷が形成される。これは岸や座礁氷山にくっついて形成される動かない海氷域である。定着氷域は変動するので、極域の沿岸線は常に同じ場所にあるのではなく、時間変化する。従って定着氷域の検出は、熱・塩フラックスを見積もる際に重要である。マイクロ波放射計のデータから、定着氷の輝度温度が周辺の棚氷や氷床のものと似ているという特性を用いて、南極海の定着氷域を検出する試みが行われているが、誤検出も多い。定着氷は通常の海氷域と異なり海氷の動きが無いので、上記の海氷漂流速度も用いることにより、定着氷域検出の改善を試みる。
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Research Products
(10 results)
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[Presentation] Sea-ice thickness and volume in the Sea of Okhotsk estimated from ICESat data2017
Author(s)
Sohey Nihashi, Nathan T. Kurtz, Thorsten Markus, Kay I. Ohshima, Kazutaka Tateyama, Takenobu Toyota
Organizer
IGS International Symposium on Polar Ice, Polar Climate, Polar Change: Remote sensing advances in understanding the cryosphere, University of Colorado in Boulder, Colorado, USA
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[Presentation] The Cape Darnley polynya: a case study in landfast sea-ice-coastal polynya interaction2017
Author(s)
Alexander Fraser, Kay Ohshima, Sohey Nihashi, Takeshi Tamura, Kazuki Nakata, Guy Williams, Rob Massom, Scott Carpentier, Sascha Willmes
Organizer
IGS International Symposium on Polar Ice, Polar Climate, Polar Change: Remote sensing advances in understanding the cryosphere, University of Colorado in Boulder, Colorado, USA
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