2021 Fiscal Year Research-status Report
高エネルギー加速器施設における高温条件下の放射性核種の飛散挙動の解明
Project/Area Number |
17K00549
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
沖 雄一 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (40204094)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松村 宏 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 放射線科学センター, 教授 (30328661)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 放射性エアロゾル / 高エネルギー陽子加速器 / 溶融事故 / 放射化金属 / 粒径分布 / 飛散挙動 / 加速器放射線安全 |
Outline of Annual Research Achievements |
2013年のJ-PARC(大強度加速器施設)における放射性核種の漏洩事故は、放射化した金属ターゲットが、機器の故障により大強度の陽子ビームに照射されて溶融・蒸発したために起きた。放射化金属中には、高エネルギー加速器施設特有の核反応である核破砕反応によって生成した多種類の放射性核種が含まれており、種々の元素、化合物の飛散挙動の違いが観測されている。本研究は同様の漏洩を防止するために、放射化させた金属試料等を用いて高温炉による溶融実験を行い、核種飛散の基礎的挙動を解明を目指すものである。本研究の知見は、加速器安全および加速器放射線安全の確保に大きく寄与すると同時に、福島第一原発事故における多種類の放射性核種の放出に関しても有益な情報となることが期待される。 本研究では、加熱により放射化金属から放射性核種の飛散挙動として、生成するエアロゾル粒子の核種別の粒径分布や粒子への放射性核種の濃縮挙動等を観測する。このために、発生する高温の放射性エアロゾルの捕集や、各種エアロゾル粒子の導入が行える高温炉とエアロゾル捕集システムの開発・整備を行い、放射化した金属の溶融実験を行った。 これまで(H29~R1)は、加熱炉として主に用いる高周波誘導加熱炉の開発・整備と、低圧インパクタを用いる粒径別エアロゾル捕集システムの開発を行ってきた。R2年度は前年度に引き続き実験条件の最適化を行い、昇温時に炉内のエアロゾル発生をほぼゼロにする前処理条件を、Ar雰囲気下で、1,850°Cまで確立した。R3年度は同条件で、高エネルギー陽子加速器内で放射化されたアルミニウム試料及び金試料の溶融を行い、生成したエアロゾル粒子の放射能基準の粒径分布等の解析を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目(H29)は、加熱炉として用いる高周波誘導加熱炉の整備と、発生する高温のエアロゾルの捕集方法の検討を行い、高周波炉の炉体は完成し、アルゴンガスを流しながら行う加熱で、約2,100°Cの安定した昇温を達成した。発生するエアロゾルを希釈することにより、室温まで温度を下げ、粒径別にエアロゾル粒子を捕集する装置である低圧インパクタに導く捕集システムを完成させた。高周波加熱時に発熱体として用いた超高純度カーボンるつぼからかなり高い濃度の微小エアロゾルの発生が認められたが、これを抑制する最適実験条件を見つけるに至らなかった。また、エアロゾル発生量の評価に不可欠である凝縮核カウンタが不調となり、修理にかなり時間を要してしまった。この間の代替機の調達ができず実験の中断期間ができてしまったために、実験の進捗に遅れが生じた。 2~3年目(H30~R1)には、上記のエアロゾル発生を抑制する条件を見つけ、試料の溶融実験を実施できる態勢をほぼ整えることができたが、試行錯誤の条件探索に時間を要した。さらに実験に不可欠である放射化した金属試料を調達する大強度陽子加速器施設(J-PARC)が数か月にわたり故障により運転されなかったため、放射化金属試料を用いた実験をほとんど行うことができなかった。以上の経緯から研究に遅れが生じ期間の延長を行ったが、R2~R3年度はさらにコロナ禍の制約により、出張実験が事実上行えない状況の中、かろうじて放射化試料の加熱実験を行い、発生した放射性エアロゾルの粒径分布のデータの収集を開始した。全体としては、やや遅れが目立つ状況となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、研究代表者が高周波炉のシステムが設置されている高エネルギー加速器研究機構の専用施設に出張して実験を行うものなので、現状では、コロナ禍で出張困難な状況が続いたり、加速器運転が停止したりすれば、想定通りに研究が進まない場合も予想されるが、柔軟に対応し、できるだけ解析を進め成果をまとめる。 放射化金属(合金含む)試料としては、当初種々の金属に対して行う計画としていたが、研究期間を考慮して対象を絞り、Al, Cu, Auなどの中から実施する。これらの粒状の試料を、設定温度まで加熱したるつぼ内に試料導入機構を用いて投入する。加熱は、アルゴンガスをキャリアガスとしてマスフローコントローラで供給しながら行う。生成する放射性エアロゾルを低圧インパクタに導き、質量基準および核種毎の放射能基準の粒径分布を測定し、エアロゾル粒子の生成機構を考察する。 コロナの状況により、実質上出張禁止となった場合などには、研究代表者の所属する京大複合原子力科学研において、通常の電気環状炉等を用いて(高温の溶融実験はできないが)、Alなどの比較的低融点の金属試料を用いた実験の実施を検討する。また研究実施計画にも述べているように、放射線場を模擬した、放射線誘起エアロゾル(Am-241線源により発生させた硫酸エアロゾルなど)の共存下における飛散放射性核種への影響を測定することも試みる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍等による研究の遅れにより補助事業期間を再々延長したため、当初当該年度で実施を予定していた内容の遅れ分については、次年度に使用する。次年度使用額は、実験旅費と消耗品の購入に用いる。
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