2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒトiPS細胞のミトコンドリア制御因子による新しい化学物質の神経毒性評価法の開発
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17K00576
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Research Institution | 一般社団法人日本薬理評価機構 |
Principal Investigator |
山田 茂 一般社団法人日本薬理評価機構, 評価法開発センター, 客員研究員 (50508679)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | iPS細胞 / ミトコンドリア / Mfn / 神経分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
化合物の中には、ヒト発達期における神経毒性が懸念されるものもあり、安全性の評価は重要である。現在、動物実験による評価が行われているが、種差などの問題により、発達期モデルとしてヒトiPS細胞を用いたin vitro評価系が期待されている。しかしながらヒト発達神経毒性の有用な評価マーカーはいまだ同定されていない。 我々はこれまでにiPS細胞を用いて神経毒性を有する農薬クロルピリホス(CPF)がミトコンドリア融合因子Mfn1を分解しミトコンドリア障害を引き起こすこと、さらにMfn1がミトコンドリアを介し神経分化を制御することなどを見出していた。 本年度は神経毒性の副作用が懸念される医薬品を用いて発達神経毒性を検討した。近年、抗癌剤である5フルオロウラシル(5-FU)はネズミの中枢神経毒性が報告されているが、ヒトへの影響は不明である。そこで本研究では、ヒトiPS細胞を用いて神経形成に対する5-FU曝露の影響を検討した。神経分化法にはTGF及びBMPシグナル阻害剤によるDual SMAD阻害法を用いた。 まず5-FU曝露したiPS細胞で神経分化を行い、マーカー発現を検討した。その結果、神経誘導4、6、8日目までに各々外胚葉マーカーPAX6、FOXG1、神経マーカーNCAM1の発現低下を見出した。次に、5-FUにより細胞内ATP量が減少したことから、ミトコンドリアの検討を行った。その結果、5-FUにより、Mfn蛋白が減少し、ミトコンドリア分裂が促進した。さらにMfnノックダウン細胞において、神経誘導に伴い、分化マーカー発現の低下が認められた。以上より、5-FU曝露によりMfn蛋白が減少してミトコンドリア機能が低下し、神経分化が抑制される可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はiPS細胞を用いて、医薬品である5-FUがミトコンドリア融合因子Mfn蛋白を減少させ、ミトコンドリア機能(ATP産生)を負に制御することを明らかにした。さらに神経分化における検討を行い、5-FUがMfn蛋白の減少を介して神経分化を抑制することを見出した。Mfnは船底防汚剤TBT,農薬CPF,ナノマテリアルAgNPsの曝露によっても減少するので発達神経毒性を有する化合物の重要な毒性ターゲット因子となる可能性がある。以上の結果から、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでいくつかの化学物質に関してiPS細胞を用いて中枢神経系への検討を行い、神経分化がターゲットとなることを示した。今後は発達神経毒性の指標として化学物質のグリア細胞に対する影響も合わせて検討したい。特にiPS由来ミクログリアの炎症応答に対する影響を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
令和元年度の化学物質の発達神経毒性評価にあたり、神経細胞に加えてグリア細胞も用いて研究を行う予定であったが、細胞の入手に時間がかかってしまった。このためグリア細胞の研究を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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