2018 Fiscal Year Research-status Report
温暖化が変温動物の生活史に及ぼす影響評価:両側回遊型淡水産コエビ類をモデルとして
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17K00578
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
濱崎 活幸 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (90377078)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生態系影響評価 / 生物多様性 / 資源保全 / 個体群生態 / 群集生態 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化が変温動物個体群の存続に及ぼす影響について、両側回遊型の淡水コエビ類をモデル生物として以下の4つの課題に取り組んだ。 1.房総半島のモデル河川における個体群動態:坂田川において月別採集調査を継続した結果、ヒメヌマエビ、ミゾレヌマエビ、トゲナシヌマエビは河口域に、ヌマエビは河川全域に、ヤマトヌマエビは上流に分布することが明らかとなった。また、各調査点における水温に差はなかったが、最高水温は26℃を超えなかった。 2.幼生の生存と発育に及ぼす水温と塩分の複合影響に関する実験的検討:昨年度飼育が困難であったミゾレヌマエビ、ヒメヌマエビとも、ふ化や飼育方法の改善によって稚エビまでの飼育が可能となった。水温(20、23、26、29、32℃)と塩分(0、8.5、17、25.5、34)を組み合わせた条件下で、ヌマエビとヤマトヌマエビの幼生を飼育した。ヌマエビ幼生の生残率は水温の上昇に伴い低下し、適正塩分は17~25.5であった。一方、ヤマトヌマエビ幼生の適正水温は23~29℃で、高水温ほど高塩分での生残がよかった。 3.親エビの繁殖に及ぼす水温の影響に関する実験的検討:ヤマトヌマエビの親エビを個別に飼育し、脱皮殻の腹肢雄性突起を観察することによって雌雄を判別することが可能であった。それら雌雄を昨年度と同様に20、23、26℃に設定した水槽で飼育し、生存、抱卵及び幼生のふ化を調べた。その結果、昨年度と同様に26℃の抱卵率とふ化率が低いことが分かった。 4.比較系統地理学的手法と飼育実験による幼生の分散能力の評価:ヒメヌマエビを対象に、静岡県の河川で標本を採集した。昨年度まで収集した標本の一部について分析を進め、ミトコンドリアのCOI領域の塩基配列情報を得ることができた。また、飼育実験によりヌマエビとヤマトヌマエビの水温と浮遊機関の関係が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題1では、継続的に野外調査を実施することによって、南方系のトゲナシヌマエビの出現数の年変動が大きいことが示唆されつつある。トゲナシヌマエビの加入は黒潮が接岸する年には多く、加入後は生残・成長できるが、抱卵率は低いことから、このトゲナシヌマエビの再生産状況をモニタリングすることで、本種を温暖化の指標種として利用できる可能性が出てきた。課題2では、昨年度飼育できなかったミゾレヌマエビとヒメヌマエビ幼生の飼育が可能になった。また、水温と塩分を組み合わせた条件下で、ヌマエビとヤマトヌマエビ幼生を実際に飼育し、水温と塩分に対する応答が種によって異なることが明らかとなっている。課題3では、雌雄判別手法が確立され、正確な性比設定が可能になった。課題4では、塩基配列情報が得られるようになり、また飼育によってヌマエビとヤマトヌマエビの水温と浮遊期間の関係が明らかとなり、水温による分散範囲を推定する基礎的知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1については、昨年度にタモ網のメッシュサイズを5mmから2mmに下げ、稚エビの採集効率を上げて、各種の加入時期を特定することを試みたが、採集個体の体サイズ組成に差はなかった。そこで、本年度は、河口域に人工藻を設置し、稚エビの採集を試みる。課題2については、ミゾレヌマエビ、トゲナシヌマエビ、ヒメヌマエビ幼生の生残と発育に及ぼす水温と塩分の影響を試験する。また、トゲナシヌマエビよりもさらに南方系であるオニヌマエビ類を対象に加えることとし、幼生飼育における適正給餌条件を把握する。課題3については、統計的解析に耐えるデータを取得するため、雌雄判別したヤマトヌマエビ親エビの繁殖に及ぼす水温の影響について繰り返し試験を行う。課題4については、入手サンプルのCOIの塩基配列を決定していく。また、課題1で採集される稚エビの種判別を確実に行うために、COI領域のPCR-RFLP分析による種判別手法を開発することに着手する。
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Research Products
(2 results)