2017 Fiscal Year Research-status Report
Effects of low level mercury contamination on health and reproduction in marine high trophic animals
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17K00588
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
新妻 靖章 名城大学, 農学部, 教授 (00387763)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大浦 健 名城大学, 農学部, 教授 (60315851)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 水銀 / ウミネコ / 副腎 / 内分泌器官 |
Outline of Annual Research Achievements |
海鳥は海洋生態系の高次捕食者であり,食物連鎖により水銀を蓄積する.生体内に蓄積する水銀はほとんどがメチル化水銀であることが知られている.低濃度の水銀汚染の影響として,異常行動,産卵障害,巣立率の低下などがある.これまでの水銀汚染の研究では,筋肉,肝臓,腎臓,羽根で水銀濃度が測定されているが,内分泌器官の水銀蓄積が測定された研究例は少ない.本研究では,青森県八戸市蕪島のウミネコ集団営巣地にて野外調査を実施し,キツネあるいはノネコに捕殺されたウミネコ39羽(雄19羽,雌20羽)を回収し,体内に蓄積された水銀,特に内分泌器官について分析した. 分析した結果,肝臓や血液の水銀濃度は,何らかの生体への影響が直ちに現れる濃度ではなかった.水銀濃度は副腎 > 肝臓 > 腎臓 > 血液 > 脾臓 > 生殖器 > 甲状腺 > 膵臓 > 大胸筋 (雌では,大胸筋 > 膵臓)の順で高かった.死体からでなく生きたウミネコからでも水銀濃度を測定できる血液と水銀濃度が最も高い副腎の水銀濃度の関係を分析した結果,有意な相関関係はなかった. 本研究より,特異的に水銀が蓄積する臓器が副腎であることが分かった.副腎は,ストレスに対するホルモン(コルチコステロン)などのホルモンを分泌する器官である.副腎に水銀が蓄積するとストレスに対するホルモンの分泌に何らかの障害が発生すると考えられる. 血液中と副腎の水銀濃度に有意な相関関係がなかったことから,血液中の水銀濃度が低く測定されたとしても副腎の水銀濃度が高くなる個体も存在する.生体の鳥の水銀暴露レベルを把握するのに血液中の水銀を指標とすることが多いが,鳥の水銀暴露レベルを決定づけるために血液中の水銀濃度だけを用いるのは,不十分である可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,海洋生態系の高次捕食者である海鳥類を研究対象とし,低濃度の水銀汚染の生体への影響について,明らかにすることである.低濃度の水銀汚染では,野生動物を対象とした場合,野生動物の生態に影響する環境要因が様々あるため,水銀の影響を検出できない恐れがあった.本研究により,低濃度の水銀汚染であっても,副腎に特異的に水銀が蓄積することが野生動物で初めて明らかとなった.たとえ血液中の水銀が低濃度であっても,内分泌器官である副腎の蓄積が高くなる個体も存在することが明らかとなった.副腎はストレスホルモンを分泌するため,ホルモンの分泌に何らかの影響がある可能性が示唆される.したがって,ウミネコの詳細な観察,生理パラメータの測定により,低濃度の水銀汚染の検出できることがわかった.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究成果を踏まえ,ウミネコの繁殖生態について,詳細な観察,生理パラメータの測定により,低濃度の水銀汚染の影響を調べる.具体的には,繁殖への影響として,卵サイズ,抱卵温度,給餌頻度,成長速度,なわばり行動への水銀汚染の関係を調べる.また,繁殖行動を観察した親鳥の生理パラメータとして,酸化ストレスとストレスホルモンであるコルチコステロンを測定し,水銀汚染との関係を調べる.また,昨年度は測定できていない,脳下垂体の水銀濃度を測定し,内分泌への影響について調べる.
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Causes of Carryover |
水銀濃度を分析する際に凍結粉砕機により標本を粉末にするが,粉砕機の修理のため当初予定していなかった支出が生じた.そのため,前倒し支払いを受け対応した.また,ストレスホルモンの分析のため,予備実験の準備用に支出を予定していたが,予定よりも少ない予算で準備ができた.次年度については,ストレスホルモンの分析を行うため,必要な消耗品を購入する.
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