2018 Fiscal Year Research-status Report
ナノ多孔材料を用いた高感度気体簡易測定法の確立と生体ガス測定への応用の研究
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17K00601
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Research Institution | Tohoku Institute of Technology |
Principal Investigator |
丸尾 容子 東北工業大学, 工学部, 教授 (50545845)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナノ多孔体 / 多孔質ガラス / 簡易分析 / 一酸化窒素 / PTIO / 比色分析 / 生体ガス / 呼吸器疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
気体の簡易測定は、環境を考慮した持続可能な社会を構築していく上で重要な技術となり、生体計測への適用により人の健康管理が可能となる。昨年度より、呼吸器疾患に関係があると考えられている一酸化窒素(NO)を検出対象として、莫大な表面積を持つナノ多孔体の表面及びその表面に存在する数層の水溶液中でのNOと2-フェニル-4,4,5,5,-テトラメチルイミダゾリン-3-オキシド-1-オキシル(PTIO)の反応により検出を試みている。今年度は最初に検出精度向上のため作製した分析チップの安定性を評価した。その結果多孔質ガラス中のPTIOは乾燥窒素気流中では安定に存在するが光及び水に対して不安定で、徐々にPTIOが分解していくこと、及び雰囲気中の酸素はPTIOの分解速度を遅くすることが明らかになった。そこでPTIOの自己分解とNOとの反応の両方を考慮した反応の解析を行い、567nmの吸収においては擬似反応速度定数とNO濃度との相関が計算から予想される通りに直線近似されることを導いた。また蓄積的な暴露により、暴露蓄積濃度と吸光度変化量の対数の相関を考察し、分析チップにおける直線関係の成立する測定範囲が0.34~4ppmhourであることを確認した。その後呼気分析で問題になる高湿度での分析について検討を行い、はじめにPTIOの吸収スペクトルの湿度依存性を明らかにするとともに567nmの吸光度とガラス中の水分量に比例する1900nmでの吸光度の間に線形の関係があることを明らかにし、1900nmの吸光度を用いて567nmの吸光度を補正する式を算出した。その補正式を用いて、25℃、相対湿度40~90%範囲での分析チップ感度の湿度依存性を検討し、感度が湿度には依存せずほぼ一定であることが明らかになった。さらには今期、すでに出願していたPTIOとNOを用いた分析チップの特許が登録された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標であったPTIOとNOの反応の湿度依存性の検討を順調に進め評価を行うことができた。湿度依存に対する補正式において分析チップの1900nmの吸収により補正ができることが明らかになったため、湿度計を用いることなく分析チップからの信号のみで補正が可能であることの意義は大きい。またセンシングチップの雰囲気や光に対する安定性を評価し、反応機構の解析に組み込むことによって567nmの吸収において擬似反応速度定数とNO濃度との実験結果が理論から導かれる原点通過の直線と矛盾しないことも導かれ、化学反応の理論に立脚した確実性のあるNO濃度の算出が可能になった。また410nmに吸収極大を持つ生成物について速度論的解析により化学反応から導かれる式により近似できることが明らかになり実環境における様々な場面で対応可能なロバストな簡易分析方法につながることになった。しかし、高感度化のために使用できると考えていた343nmの吸収において擬似反応速度定数とNO濃度との相関は直線近似されるが原点を通過していないことが明らかになり、この原因について今後の検討が必要であると考えている。論文においては今年度受理を目標としていたが、反応解析において擬似反応速度定数とNO濃度との相関において原点通過の問題が生じ、検討を行なっていたため目標には至らなかった。しかし、安定性の評価などによる多面的な繰り返し評価により理論との一致を見たため、完成度の高い論文の作成が可能となり現在論文化を進めている。またこれまで暴露NO濃度の確認ができていなかったが、研究室が保有しているNOxアナライザを修理して立ち上げた結果NO濃度が確認できるようになり、今後呼気を模した実験などを加速できることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進については、概ね当初の計画通り実施していく。ただ呼気及び皮膚ガスの測定においてセンシングチップの感度(現在は0.34ppmhour以上)が十分ではなく、高感度化を目指してセンシングチップの反応系の組成に着目しての検討を今年度に引き続き行なっていく。現在1種類の化合物の添加により約2倍の感度の可能性が示されており、その化合物類似物質を中心に化合物添加による高感度化の検討を行う予定である。高感度化の達成の可否により、皮膚ガス分析の方法(通常の貼り付け方法または特殊な部品を用いた長時間暴露方法)について検討を行う。また今年度までは精度よく化学反応を解析するためにNO濃度が大過剰の実験条件で反応解析を行っていたが、来年度は呼気測定を想定して有限体積中のNO濃度測定の検討を行う。環境大気中などの無限体積ではNOはセンシングチップのPTIOと反応して消費されても、環境中から補給されるためNO濃度は一定と考え、PTIOのみが減少するとしていた。しかし呼気は体積が1L~2Lの有限体積と考えられる。そのような反応系ではNO濃度はPTIOとの反応により徐々に減少し、補給されないため、濃度が減少する物質をPTIOとNOの両方とする必要がある。このような条件のもと反応を数値解析し有限体積(1L~2L)中のNO濃度を高精度に求める方法及び検出限界を検討する。また、呼気のような高湿度の気体を常温のセンシングチップで分析した場合の問題点を抽出して、解決方法を検討する。
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Research Products
(10 results)