2017 Fiscal Year Research-status Report
樹木内の物質循環に基づく放射性セシウムの木部への集積・蓄積機構の解明
Project/Area Number |
17K00635
|
Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
飯塚 和也 宇都宮大学, 農学部, 教授 (20344898)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 放射性セシウム / 木本植物 / 樹幹木部 / 循環 / 蓄積・固定 / 樹幹内の分布 / カリウム |
Outline of Annual Research Achievements |
福島原発事故発生後6年が過ぎた本年は、スギとシイタケ原木となるコナラの樹幹木部の放射性セシウム、特に半減期の長い137Csの放射能濃度(ガンマ-線)をGe半導体検出器で測定した。主な実績の概要を下記に示した。 (1)心材が既に形成されたスギについて、半径方向の辺材から心材への137Cs移動を検討した。スギに心材の特性として、含水率の高いものは材色が黒色系で(明度が低い)、またカリウム含有量が高く、含水率の低いものは赤色系(明度が高い)、またカリウム含有量が低いことが知られている。そこで、材色とカリウム含有量に着目して調査した結果、137Csの辺材から心材の移動は、心材と辺材のカリウム含有量の比に影響を受けていることが示唆された。137Cs濃度のついて、黒心材系のもの心材と辺材の比が低く、一方、赤心材系ではその比が高い傾向があることが明らかになった。 (2)2年生苗木の水耕栽培による経根吸収に関する調査をした。RI実験室にて、1000Bq/Lに調整した水耕栽培用の溶液を1L用の容器に入れ、水耕栽培実験を行った。その結果、以下のことが明らかになった。①供試したスギ苗木から、水耕に適した発根があった個体は、長期に生存することが可能であった。②水耕栽培後3週間では、137Cs濃度は徐々に上昇し、特に新梢部位の濃度が最も高くなった。③水耕に適した根の発生がなかった個体は、4週間以降で、濃度の低下がみられ、枯死していった。 (3)コナラ立木の137Cs濃度は、2012年から2017年の6年間で、樹皮は50%以上濃度が低下したが、一方、木部では微減であった。このため、原木シイタケ栽培に当たり、原木の規制値が50 Bq/kgであるが、原木の放射性セシウム濃度の占める木部の比率が高くなることで、移行係数2といわれているが、時間とともに、移行係数が高くなることが懸念される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
福島原発事故発生後6年が過ぎた本年は、建築用材や木質バイオマス燃料となるスギとシイタケ原木となるコナラの樹幹木部の放射性セシウム、特に半減期の長い137Csの放射能濃度(ガンマ-線)をGe半導体検出器で測定した。 (1)137Csの辺材から心材への半径方向の移動は、心材と辺材のカリウムの濃度勾配に影響されていることを明らかにした。 (2)水耕栽培用のスギ苗木について、水耕栽培後新たに発根した個体は、実験に適することが分かったこと、ならびに137Csは特に新梢部位の濃度が著しく高くなった。 (3)コナラ立木の137Cs濃度は、データを収集できた2012年から2017年にかけて樹皮の低下が大きいが、木部は微減であった。このため、移行係数2で判断基準としていた原木の規制値50 Bq/kgに関し、原木の放射性セシウム濃度に占める樹皮の比率が減る一方、木部の比率が高くなることが推察された。この結果、移行係数が2以上になることが考えられ、生シイタケの規制値100 Ba/kgを堅持するためには、原木の規制値を下げる必要性があることが推察された。 (4)養苗していたスギクロ-ンが実験できる状態になったため、来年度から実際に汚染地帯に植栽試験できるなど、準備が整ってきた。また、スギの葉枯し処理による放射性セシウムの樹幹内の移動に関し、再調査を開始した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の主な研究は、これまでの放射性セシウムに関する樹木の研究・調査を踏まえ、下記のとおりである。 ①事故以前に心材が形成されていたスギとコナラについて (1)放射性セシウム濃度の経年変化の傾向を継続的に調査する。特に樹幹内変動について、調査・検討を進める。(2)放射性セシウム濃度について、樹幹木部の心材への集積・蓄積は、林齢あるいは樹木サイズに依存するかどうかを、明らかにする。(3)樹幹内の物質循環を把握するため、同齢のスギにおいて、健全に成長しているものと被圧された劣勢木における放射性セシウム濃度および分布パタ-ンを比較検討する。 ②事故後に心材が形成され主に経根吸収により放射性セシウムを吸収したスギについて (1)事故後に心材が形成された林齢11年のスギについて、半径方向の辺材と心材、樹幹方向の辺材の放射性セシウム濃度とカリウム含有量を調査する。(2)経根吸収量は、遺伝的特性で説明可能かサイズ(成長量)に依存するかを検討するため、養苗したクロ-ンを汚染地帯に植栽する。このことで、遺伝的由来の明らかな材料で調査できるため、多くの有用なデ-タが収集できることが期待される。 研究の推進の方向は、得られた成果に基づき、樹木内に循環するまた集積・蓄積する放射性セシウムに関し、将来予想が可能なモデルの構築の検討である。
|
Causes of Carryover |
英文論文について、英文校正および投稿が2017年度中に間に合わなかったため、次年度にずれ込み、今年度に投稿する予定となったため。
|
Research Products
(5 results)