2017 Fiscal Year Research-status Report
残留性有機フッ素化合物の生物濃縮特性の解明と予測手法の構築
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17K00637
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
小林 淳 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (00414368)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生物濃縮 / タンパク結合 / ドッキングシミュレーション / 薬物代謝 / 両親媒性物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を含むペルフルオロアルキル化合物(PFAAs)のような両親媒性物質は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)等の疎水性物質と物性が大きく異なるため、既存手法による生物濃縮性の予測精度は十分でない。本研究では、PFAAの血清アルブミンとの結合、肝臓における薬物代謝に着目して、PFAAの魚類に対する生物濃縮特性の解明と予測手法の構築を目的とした。 今年度は予備実験として、まず市販品のヒト・ウシ・ラットのアルブミンを対象にPFOS、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)を含む6物質の結合実験を行った。その結果、アルブミンの種類、対象物質の官能基、炭素鎖長の違いによってタンパク結合定数が異なることが示された。つぎに、これらのタンパク結合定数の違いを生じさせている要因を調べるために、ドッキングシミュレーションにより各アルブミンにおけるPFAAの結合位置、結合に関与しているアミノ酸残基を推定し、結合状態を明らかにした。さらに、タンパク結合定数の実測値とドッキングシミュレーションによる予測値を比較した結果、官能基、炭素鎖長の違いによる結合定数の大小を良好に再現できた。また、PFAAと類似の化学構造をもつアルキルスルホン酸、脂肪酸,ペルフルオロホスホン酸類についてもドッキングシミュレーションを行い、これらの物質の結合定数を推定し、PFAAとの差異を明らかにした。 PFAAの肝臓における代謝速度を明らかにするために、ニジマスの肝S9を用いた薬物代謝実験を行った。まず、ピレンを参照物質として代謝実験を行い、代謝速度定数が既報と同程度であることを確認した。つぎに、PFOAを対象に代謝実験を行った結果、濃度減少は観察されず、実験時間内においては代謝がほとんど進まないことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究計画にそって研究を展開することができた。アルブミンを用いたタンパク結合実験ではPFAAの6物質を対象に実験を行い、哺乳類のヒト、ウシ、ラットのタンパク結合定数を得ることができた。また、ドッキングシミュレーションによって各アルブミンとPFAAとの結合状態や結合定数を推定し、実測値と予測値の乖離の程度や物性との関係について知見を得ることができた。さらに、PFAAと構造が類似した39種の化合物についてもドッキングシミュレーションを行い、PFAAの推定結果との類似性や差異について明らかにすることができた。 薬物代謝実験については経済協力開発機構(OECD)ガイドライン(ドラフト)に準拠し、ニジマスの肝S9を用いて行った。まず、OECDガイドラインに参照物質として記載されているピレン、n-ノニルフェノールを対象として実験を行い、実験結果の妥当性、再現性を確認した。その後、PFOAを対象に実験を行い、代謝速度に関する知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究計画にそって実験を進める。まず、ニジマス等の魚類のアルブミンを用いてPFAAとの結合実験を行い、タンパク結合定数を明らかにする。また、このアルブミンの構造を推定してドッキングシミュレーションに用い、PFAAおよび構造類似物質等のタンパク結合定数を推定する。また、平成29年度に引き続いてニジマス肝S9を用いたPFAAの薬物代謝実験を行い、各物質の代謝速度定数を明らかにする。実験結果からPFAAの代謝速度定数と物性との関係、代謝物等を明らかにする予定である。 さらに、ニジマス稚魚等を用いてPFAAの暴露実験を行い、各物質の血液、筋肉、肝臓等における濃度分布とその経時変化を明らかにする。暴露実験の結果から体内分布に関する知見を得るとともにPFAAの呼吸器官からの吸収効率、取り込み・排泄速度定数を明らかにする。また、暴露実験の結果をタンパク結合実験、代謝実験の結果と照らし合わせ、各PFAAの生物濃縮過程における生理学的な特性について明らかにする予定である。
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Research Products
(2 results)