2018 Fiscal Year Research-status Report
東日本大震災により撹乱を受けた藻場・干潟生態系の回復過程と流域圏からの負荷の評価
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17K00650
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Research Institution | Ishinomaki Senshu University |
Principal Investigator |
玉置 仁 石巻専修大学, 理工学部, 教授 (30364417)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小瀬 知洋 新潟薬科大学, 応用生命科学部, 准教授 (60379823)
坂巻 隆史 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60542074)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 藻場 / 干潟 / 流域圏 / 起源解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
震災によりアマモ類が大幅に減少した牡鹿半島東岸の藻場では,その後の4.5~6.5年程度の経過で,複数年にわたりタチアマモの密度分布が震災前の水準まで回復したことが明らかとなった。一方,アマモに関しては未だ減少した状態であり,その原因として震災後の水中光量低下の影響が推定された。また昨年度,光環境減少の一因として流域圏(河川)からの濁質負荷の影響を報告したが,今年度,それを支持する資料として,河川経由で濁質が浜に流入している空撮写真を見つけた(入手手続き中)。 東松島の干潟に関しては昨年度に続き,アサリ移植による生育阻害因子の検討を行った。2018年冬季に湾口部で造成された砂質干潟からの土砂が流入したせいか,その後背に位置する湾央部の干潟では,底質中のシルト分が減少し,また間隙水中の溶存酸素が増加していた。これにより本地点の移植アサリの生育状況に改善が認められた。一方,人工干潟の背後に位置するため,その流況の静穏化が予想された潮下帯では,底質中のシルト分の増加と間隙水中の溶存酸素の低下が見られ,移植していたアサリのへい死率が増加していた。 このように底質中のシルト分増減を起因とした環境変動がアサリの生育に影響を及ぼしたことから,シルト分の由来を検討した。2017年~2018年の干潟の南西側で見られた泥分については,湾口・外から流入してきた沈降物による影響が示唆された。さらに湾口部で行われている堤防工事からの微細な土砂も混じって干潟に流入している可能性が考えられた。また元々干潟にあったと推察される底質のカテゴリーの占める割合が,2015年から2017年にかけて減少したことが明らかとなり,湾の周囲からの負荷が増加している可能性が推察された。なお解析途中とはなるが,2017年にセジメントトラップで採取された沈降物中のδ13Cに関しては,現地性由来である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的であるアマモ類藻場と干潟生態系の震災からの長期的な変化,およびこれらの変化に対する流域圏からの影響に関する知見を得ることができたことから,進捗状況についてはおおむね順調であると判断した。 なお干潟の生物種同定については,2018年冬季に造成された人工干潟も研究対象としたために試料数が予定よりも増加し,その結果,ソーティングが年度中に間に合わなかった。加えて天候不順により,1回分の藻場等調査を延期としたが,当初に予定していた成果については,概ね得られたと考えている。令和元年度には,これら干潟生物試料のソーティング・計測と順延した藻場等調査を行う予定である。 撹乱を受けた干潟におけるアサリ群集の増減をコントロールする一因である泥分の起源解析に関しては,堤防工事や湾口・外からの負荷の影響を示唆することができたが,これらが異地性,もしくは現地性の由来なのかについては充分に考察できなかった。これに関しては,さらにデータを蓄積して検討を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
藻場や干潟が地震・津波により受けた撹乱から今後どのように変わっていくのか,9年間にわたる長期的な生態系の遷移と沿岸環境の変化を明らかにしたい。研究対象としては,平成30年度と同じ藻場,ならびに干潟と同湾内に新たに造成された人工干潟とし,基本的にはこれまでと同様の手法で継続的な調査を行う。なお必要に応じて,調査対象となる藻場・干潟を追加する。 アマモ類藻場に関しては,平成29年度に回復したタチアマモが,複数年にわたって震災前の水準を維持したことから,今年度については,調査範囲を広げて,震災前に比べてどの程度,面的なレベルで藻場が回復したのかを明らかにしたい。また流域圏(河川)からの濁質負荷を支持する空撮写真を入手する。 干潟生態系に関しては,震災からの長期的な変化,ならびに人工干潟においては造成から1年後の初期遷移過程を踏査する。また震災の撹乱以降,もしくは造成後に見られる干潟生態系の発達の程度の速さが,環境条件によってどう変化するのかを検討し,種々の撹乱からの生態系形成過程を決定しうる諸因子についても考察したい。 採取されたシルト分の炭素安定同位体比と金属組成比の解析結果を組合わせることで,アサリの生育を制限した干潟湾央部の泥分に関して2015年時の負荷源推定を行うことができた。このことから,未処理試料の分析と解析を進めることにより,起源解析手法の高度化に向けて検討する。
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Causes of Carryover |
天候不順等の理由により,予定していた藻場等調査を行うことができず,それに伴う潜水雇用費と傭船料(計20万円程度)が未使用となった。順延した藻場等調査については,令和元年度に行う計画である。 また平成30年度には,同湾内に造成された人工干潟も研究対象としたことにより,試料数が増加し,それに伴って干潟底質からの生物相ソーティングに時間がかかったため,同定にかかる外注費(約16万円)も未使用となった。現在,残った試料のソーティングを行っており,今年度中にはその同定作業を依頼する計画である。その他に関しては,おおむね予定どおりであり,また研究の進捗状況のところで記載しているが,上記の助成金未執行に伴う大幅な研究の遅れ,ならびに研究計画の変更はない。
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Research Products
(9 results)