2017 Fiscal Year Research-status Report
太陽電池の効率向上のための新しい双方向波長変換材料の開発
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17K00666
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐俣 博章 神戸大学, 海事科学研究科, 教授 (90265554)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 波長変換 / アップコンバージョン / ダウンシフト / 太陽電池 / 発電効率 / 多元系酸化物 / フラックス法 / 温度消光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、太陽電池の発電効率を向上させるために利用可能な新しい波長変換材料の開発を行っている。初年度は、多元系酸化物YBaZn3AlO7、Gd2SrAl2O7、GdCaAlO4などを母体とし、様々な組合せの希土類イオンを付活剤として添加した試料の合成を試みるとともに、得られた試料の特性の評価・解析を行った。 試料の合成は、アルカリ土類金属元素の塩化物溶融塩を用いたフラックス法により行い、それぞれの系において、良質な単相試料の合成が可能になる合成条件の最適化を行った。得られた試料の結晶構造は、組成分析の結果を基に、粉末X線回折のデータを利用したRietveld法によるシミュレーション解析によって決定した。また、様々な励起光照射時の光学的性質を分光器によって評価することにより、以下の成果を得た。 YBaZn3AlO7にエルビウムとイッテイルビウムを共添加した結晶においては、紫外光(波長365 nm)と赤外光(波長980 nm)を同時照射した際、母体によるダウンシフト発光と付活剤によるアップコンバージョン発光を観測し、単一材料による双方向波長変換の発現に成功するとともに、物質内部におけるエネルギー伝達過程を明らかにした。 また、Gd2SrAl2O7とGdCaAlO4においては、溶融塩を利用した液相中合成によって、通常の固相反応法に比べて400℃程度低い温度での単相試料の合成が可能となる手法を確立した。さらに、両母体に付活剤を添加した試料においてアップコンバージョンの発現に成功し、熱伝導率が大きく異なる2つの系において発光強度の温度依存性の評価・解析を行った。波長変換材料を太陽電池に応用する際には、材料の温度上昇に伴う特性の悪化(温度消光)が問題となるため、今後の材料設計を行う上で重要な指針が得られたと考える。 以上の研究成果について、学術論文1編、学会発表4件として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、太陽電池の発電効率を向上させるために利用可能な新しい波長変換材料の開発を目指しており、初年度は、既存物質を母体とした付活剤共添加型試料の合成と基本特性の評価・解析を行うとともに、他の母体用物質の探索的合成と合成条件の最適化を行うことを予定して研究を推進した。 結果として、既に良質な結晶合成手法を確立していたYBaZn3AlO7に付活剤を共添加した結晶において、2波長同時照射による双方向波長変換の発現に成功し、物質内部におけるエネルギー伝達過程をモデル化した。さらに、Gd2SrAl2O7とGdCaAlO4について、溶融塩を利用した液相中合成によって、合成温度の大幅な低温化を伴う、良質な単相試料の合成手法の確立に成功するとともに、付活剤の添加によるアップコンバージョンの発現とその温度消光特性の評価・解析を行った。これらの研究成果について、学術論文1編、学会発表4件として公表した。 以上のことから、当初予定していた研究計画に対し、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に得られた研究成果を基にして、多元系酸化物を母体とした新材料の合成と特性評価・解析を進め、引き続き太陽電池の発電効率向上のために利用可能となる新しい波長変換材料の開発を目指す。 試料の合成は、これまでに蓄積したノウハウを基にアルカリ土類金属元素の塩化物溶融塩を用いたフラックス法を中心に行い、得られた試料に対して粉末X線回折による結晶学的性質の評価・解析と分光器等による光学的性質の評価・解析を行う。 特に、母体の種類と付活剤の添加比率に着目し、各材料系における双方向波長変換時のエネルギー伝達機構を明らかにし、単一材料による双方向波長チューニング特性の評価を中心に研究を推進する。また、母体に添加する付活剤として、希土類イオンの他に、モリブデンイオンやチタンイオンなどの遷移金属元素を同時添加することによって各波長域における光吸収特性の向上による波長変換特性の改善を試みる。さらに、各種太陽電池用の最適組成と結晶構造を決定することを目指すとともに、これらを分散させたシートを作製しデバイスへの応用を試みる。 以上のことから得られた各材料の持つ波長変換特性の評価・解析結果については、前年度に引き続き、各種学術雑誌、国内の学術講演会及び国際会議において発表するとともに、最終的に総括し研究成果として取りまとめる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額(6,166円)は、次年度予算に合算することによって、より有効に予算を使用するために発生した。次年度においては、試料合成に使用する原料等の消耗品費として利用する予定である。
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