2018 Fiscal Year Research-status Report
環境の統合的ガバナンスの正当性をめぐる環境倫理学的分析
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17K00682
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
豊田 光世 新潟大学, 研究推進機構, 准教授 (00569650)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新井 信幸 東北工業大学, 工学部, 准教授 (20552409)
高田 知紀 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60707892)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 資源マネジメント / ガバナンス / 所有 / 利用 / 管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自然資源の所有・管理・利用という観点から、統合的環境ガバナンスの課題について事例をもとに考察を行い、公正で平等な参加と協働のあり方を明らかにすることを目的としている。主な事例として、自然資源のマネジメントが生業と結びついている新潟県佐渡市、自然との関わりが比較的な希薄な都市エリアに位置する兵庫県神戸市、災害により長年続いてきた所有の枠組みが崩壊し、管理と利用の再構築が迫られている宮城県仙台市について、昨年から引き続き現地調査を実施し、ステークホルダーのヒアリングを行った。これらの事例に加え、今年度は、石川県珠洲市の里山薪炭林資源再生事例、および広島県北広島町の里山草原マネジメント事例を視察し、また、海外の統合的水資源マネジメント事業について関係者に聞き取り調査を行い、考察のポイントを整理した。 資源マネジメントに関する複数の事例から、所有、利用、管理の主体が一元的である場合と、それらが異なる場合があることが見えてくる。その形態は、私、公、共と明確に区分できるとは限らず、例えば私的に利用することが意図せずして公共的意味を持つ場合など、重なり合って連関していることがある。昨年度調査した3地域の事例は、公的な利用の側面が強かったが、今年度調査した事例からは、私的な所有と利用が生み出す公的価値を捉えていくことの重要性が示唆された。所有、利用、管理のあり方をシステム的に捉え、複雑な連関とともに可視化していく必要性が示された。また、近年は、「所有」から「アクセス」へと人びとの欲求が移行していると言われる。資源を所有することで利用の権利を獲得する形態から、権利そのものを所有する形態(例えばオーナー制やサブスクリプション方式など)へと変化している。これらの観点も踏まえて、環境ガバナンスについての考察を深めることが重要だという認識に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は宮城県仙台市で2回、新潟県佐渡市で1回、計3回の研究会を開いたほか、広島県の事例調査を共同で実施し、考察の幅を広げることができた。さまざまな形態の自然資源マネジメントを視察したことで、事例分析の観点が広がった。自然資源のマネジメントでは、オストロムが論じたコモンズ論など、資源の所有・利用・管理に関する伝統的形態の分析が重視されてきたが、文献調査によって「アクセス」「サブスクリプション」などの現代的資源利用の観点、こうした利用が広がることで生じるアクターの層の急激な拡大という観点などを考察に組み込む重要性を認識した。今後は、調査対象地で市民参加型の成果共有の場をつくり、自然資源マネジメントに従事する人びとのフィードバックを取り込みたい。そうした機会で得られた観点も生かして、研究成果のとりまとめに注力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでに調査した事例の比較考察を行い、環境哲学、資源マネジメント論などの文献調査から得られた知見と重ね合わせ、研究成果の取りまとめに注力する予定である。研究成果をまとめた冊子の作成と国内外での研究成果発表に努めたい。研究成果の発表は、国内学会(日本感性工学会を予定)のほか、対象地域でのフォーラム開催を予定しており、市民からのフィードバックも考察に生かしたいと考えている。また現在、米国ハワイ大学マノア校での研究会の開催を検討している。哲学や都市計画などの分野の研究者だけではなく、自然資源マネジメントにかかわる市民や行政関係者とも意見交換を行い、特に異文化からの批評を加えることで、自然資源マネジメントの風土性とともに、国境を超えて生じている課題を浮き彫りにしたい。最終的な成果は、研究の社会還元にもつながるよう、冊子としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
外部研究者等を招聘しての研究会を次年度に延期したため、講師謝礼や文字起こしに関わる謝金の支払いが不要となった。次年度は、外国の大学での研究会を予定しており、今回の残額はそのための経費として使用する。
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Research Products
(1 results)