2018 Fiscal Year Research-status Report
アノニマスデザインの知見を応用した臥床担がん患者の病衣デザインの研究
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17K00726
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
藤井 尚子 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 准教授 (30511977)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 開襠褌 / 開口構造 / 中国アノニマスデザイン / 臥床患者用病衣への応用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、臥床担がん患者の身体的負荷軽減に資する病衣デザインのうち、特に「下衣」について考案・開発を目指している。第2期にあたる平成30年度は、「開襠褌(kaidangku)」の使用及び構造について調査を実施するとした当初計画のとおり、資料文献調査及び中国(杭州、上海、南京、北京)での実地調査を行なった。 まず資料文献調査では、研究協力者を通じて中国内で公開されている論文等にあたり現状把握を行なった。中国では近代まで男女問わずズボン(kuzi)を着用しており、股部開口の有無により「開襠褌」と「連襠褌(liandangku)」と称し大別している。開襠褌の使用については、現代では排便しやすい幼小児用パンツが主に製品化され、インターネット上でも多数の事例を確認した。さらに、臥床患者のための病衣、内視鏡検診用検査着、婦人科での診察着への提案などもあり、実地調査では現物視察は叶わなかったものの、論文等に掲載された図から、大凡のデザイン提案を窺い知ることができた。 その上で実地調査では、現状での開襠褌の応用事例にない構造を探るため、服飾史的変遷に着目した。中国絲綢博物館(杭州)では、前年度作成した1/2モデルの実物(台州黄岩区博物館収集による宋代(10c頃)の墳墓から発掘された開襠褌)2点の実物の視察・実測および北京服飾大学の蒋玉秋准教授の再現資料の実装を通して、文献資料のみで理解していた構造と異なることが明らかとなった。開口部の左右のそれぞれの帯を背面で交差させ、胴部で調整し、それを目視できる前面で結ぶため、開口部は背面となるのである。さらに、上海東華大学附属紡織服飾博物館の李博士の協力により、中国近代(清国~民国初期)の小児用開襠褌の実物7点を実測調査した。3パターンの構造に分けることができ、且つ実用性だけでなく装飾的観点からも、当該研究の病衣デザインに参考になる点が多く見受けられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2期の当初研究計画どおり、開襠褌の現状についての文献資料調査と、構造についての実地調査を実施し、今後の展開に資する知見を得られたことは順調な進展といえる。特に、開襠褌の実際の構造と分類について明らかになったことや、中国においてもアノニマスデザインというべき事例をもとに、現代の暮らしに応用する動向を知ることができたことは有意であると考える。一方で、当初計画していた日本のアノニマスデザイン(山袴・裁着袴など)との比較検討については、現状では未着手の状態である。また、第1期に予定されていた担がん患者症例と病衣の関係についての整理も進行中の課題であり、また、第3期(2019年度)より研究代表者の所属先を移動したことにより、それまで協力いただいていた附属病院などに継続的協力が得られるかどうかも今後の研究進捗への影響が見込まれることもふまえ、区分(2)の評価となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
第3期(2019年度)は、病衣プロトタイプ作成及び検討を当初計画に組み込んでいる。これまでに研究成果を受け、今後の研究の推進方策として、以下を計画する。 まず、(1)開襠褌の実際構造について再作を試み、次に、(2)従来の浴衣型の改良構造[前面開口構造]の下衣と、(1)を簡易化した構造[背面開口構造]の下衣の実験衣を作成する。その上で(3)擬似臥床患者を被験者に、臥床状態での着装感(着心地:着装時の安心/不安感、羞恥心の有無および度合いなど)について実験する。同様に(4)擬似介助者を被験者に、(2)で作成した[前面開口構造]および[背面開口構造]と、通常の閉口構造下衣(=[パジャマズボン])のそれぞれの実験衣を用いて、臥床状態での更衣介助しやすさについて試験する。この際の更衣介助動作は、通常の(a)側臥位→仰臥位→側臥位と、絶対安静のため臥床状態を保持しなくてはならない場合を想定した(b)仰臥位のみ の(a)(b)2パターンそれぞれで行う。しかし、[背面開口構造]実験衣については、被験者が更衣介助しやすいために独自に工夫する点に着目し、適宜手順および方法を撮影し、動画および静止画で記録、今後の検討材料とする。 以上の実験より、まず、臥床患者にとって下衣の股部開口構造に対する抵抗感の有無を明らかにするとともに、不安感や羞恥心を感じにくい開口位置について明らかにしたい。また、介助者にとっても更衣介助しやすい構造や形態について検討可能な知見を得ることをめざす。 なお、研究代表者の所属先移動に伴い、研究協力体制が変化したことをふまえ、第3期は協力体制の再構築に努めるとともに、当該研究の最終段階において、ブラッシュアップしたプロトタイプを用いた実装実験を実施できるような環境整備も同時に進める計画である。
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Causes of Carryover |
当該年度末月に実地調査を実施した。実地調査のための旅費、通訳費を含めた謝金の他、現地での資料収集に予算を計上していたが、当初計画していた、清朝後期から民国初期の開襠褌の資料収集が困難であったため、予算のうち未使用額が生じた。 未使用額の使用計画として、インターネットを通じて購入可能であれば、現状で使用されている開襠褌を応用した製品を資料収集に充てたい。資料購入が困難であれば、次年度計画している実験のための実験衣作成費(謝金)として使用したい。
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