2017 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Life Science on Allomothering Care using Intergeneration
Project/Area Number |
17K00763
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中井 孝章 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (20207707)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 幼老統合ケア / 多世代交流 / アロマザリング / 進化心理学 / 宅幼老所 / 共生ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
今日の子どもの成長発達の機会は,母子関係をベースに,子ども支援施設と学校関係に限定されている。特に,家庭における父親の慢性的不在状況が,母親がわが子を「母子カプセル」の中に閉じ込めてしまい,わが子からさまざまな人たちとかかわり合う過程で成長発達していくという機会を阻害している。ところが,“子どもが育つには100人の村が必要だ”といわれるように,子どもの成長発達の機会は,さまざまな人たちとの関係性の中にこそある。子どもは多様な人間関係の繋がりの中で育つのだ。このとき浮上してくるのは,母親以外の個体(=アロ)による世話を意味する「アロマザリング」である。 本研究を展開するにあたって研究代表者は,子どもの泣くあるいは癇癪を起こすという行動に着目した。そして,子どもは泣く(癇癪を起こす)ことの頻度を,家庭とそれ以外の子ども支援施設や機会で観察・記録を行った。その結果、大半の子どもは,平穏なはずの家庭では頻繁に泣くのに対し,アロマザーと一緒の子ども支援施設や支援機会の場ではほとんど泣かないことが判明した。特に、大阪市の2つの地区で実践した「子どもー高齢者ー大人」から成る世代間交流の場・機会において,大半の子どもは,家庭で私人として親と居る時とは異なるモード,すなわち公人として自己を制御しながら周囲を見て,自分の置かれた立場や役割を察知しながらかかわりを持つため,ほとんど泣かないことが判明した。つまり,世代間交流の場・機会は,アロマザーとしての高齢者の地域の大人が単なる母親の代理者ではなく,子どもにとって独自な意味を担った他者なのである。つまり,子どもは公の場・機会に居る時の方がはるかに自らを制御し,自立・自律していることから,アロマザリングの立場から子育ての方法(子どものシステムも含めて)を考え直すことが不可欠であると考えた。今後,アロマザリングによる多種多様な子育てを進めていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アロマザリング研究の展開に際して,この研究のベースとなる,グランドマザリング仮説およびインタージェネレーションの内外の知見(特に,英語圏の人類学関連の文献)を理論的にまとめ,1冊の冊子にまとめた。これにはかなりの時間を割いたが,1年間でまとめることができたことは,自分なりに評価している。 大阪市の2つの地区において、1年間、子どもと高齢者との交流に基づく世代間交流を実践してきた。その中で、子どもが主に母親とかかわる場合と、母親以外のアロマザー、すなわち高齢者の人たちとかかわる場合との違いを、数名の特定の子どもに対し、感情表現(主に「泣く」と「癇癪を起こす」)の観察およびインタビューするとともに、そのインタビューしたデータを主に言葉遣いの違いから比較分析および考察した。その結果、数名の子どもはすべて、身内である母親とかかわる場合、発話場の状況に依存した言葉遣い、すなわちその場を共有しないとよく理解することのできない言葉の形式を多用するのに対し、母親以外のアロマザーとかかわる場合、見かけの上では敬語や丁寧語を用いるだけでなく、それ以上に発話場の状況に依存しない独立した言葉遣いを多く用いていることが判明した。また、子どもは対母親のように初めから、自らの立場や役割が母親によって規定されているのとは異なり、対アロマザー(高齢者)の場合、子どもはその都度(状況ごとに)自らの立場・役割をアロマザーの行動を観察・理解することを通して柔軟に考え、状況に応じた行動・ふるまいをしていることが判明した。本研究は、子どもにとっての、母親とアロマザーとの違い、その違いに応じた行動や役割を解明してきているが、あらかじめ立てた仮説に照らしてもここまでの研究はおおむね順調に進んでいると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
日本ではいまだアロマザリングは認知されていないことから,今後も,内外,特に英語圏の人類学関連の文献を読解し,まとめていきたい。ただ,アロマザリングそのものの文献は少ないため,そのベースとなるグランドマザリング仮説およびインタージェネレーションの理論研究を通して効率的に行っていきたい。 次に、アロマザリング研究は,単なる理論研究では不十分であることから,大阪市の2つの地区(小規模コミュニティ)での世代間交流を実践しながら,その中で子どもにとってのアロマザーの存在意義を観察・記録・インタビューを行い,地道なデータ分析を継続していく予定である。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、次の通りである。 当初、インタージェネレーションとグランドマザリング仮説、およびアロマザリングに関する内外の文献、特に英語圏の文献の購入に多額の費用がかかると見込んでいたが、これらのすべての文献がインターネットを通して無料公開していたため、費用が節減できた。ただ、次年度は、今年度使わなかった予算を無償で入手できない貴重な資料や研究テーマに関する周辺の文献の入手にあてる予定である。
|