2018 Fiscal Year Research-status Report
Photo-Dyeing and Suppression of Photodamage by Treatment Using Biobased Materials
Project/Area Number |
17K00786
|
Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
安永 秀計 京都工芸繊維大学, 繊維学系, 准教授 (80241298)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | バイオベースマテリアル / 毛髪 / 光損傷 / 損傷度評価 / 損傷抑制 / 染毛 / 光染色 / 蛍光 |
Outline of Annual Research Achievements |
バイオベースマテリアルを用いた毛髪の保護の研究過程において、その損傷度が高いほど光照射による劣化が進行することがわかった。そこで、まず毛髪の損傷度の評価法を確立する必要があると考えた。標準化された毛髪損傷度評価法はなく、引張試験・顕微鏡観察・アミノ酸組成分析等では掛かる時間・定量性の欠如・低感度・低再現性等の問題があった。 今回、生薬成分のベルベリン(BB)の蛍光発光による新規毛髪損傷度評価法の研究を行なった。その結果、BB処理した損傷毛髪は365 nmの光で蛍光発光し、損傷時の酸化剤濃度が高くなるにつれて毛髪中の-S=Oが増加するとともに発光強度が上昇することがわかった。さらに、蛍光信号が長波長側に順次シフトし、観測光が黄色遷移する。損傷の進行に従い毛髪中の吸着BBの分布がより内部に広がり、全体吸着量も増加する。また、BBの蛍光発光信号は相互作用する物質の極性が高くなると長波長シフトするため、損傷にともなって酸化した極性官能基が毛髪タンパク質で増加し、これと相互作用するBBが増えるために黄色遷移が起こると考えられる。以上より、毛髪の損傷度をベルベリンの蛍光発光によって評価することが可能であるといえる。また本方法は生えている状態の毛髪の評価にも使え、引張試験では観測が難しい軽微な損傷も検知できる。 一方、可視光線を用いた染毛法の研究において、ローズベンガル(RB)・メチレンブルー(MB)で処理した毛髪に(+)-カテキン(Cat.)水溶液中で可視光を照射すると毛髪が着色することを明らかにしてきた。さらに、可視光領域の光増感剤としてビタミンB2(VB2)で毛髪の光着色性を調べ、RB・MB・VB2を組み合わせた系で処理した毛髪で最も高い着色性が得られることがわかった。RB・MB・VB2の吸収光波長領域はそれぞれ異なり、これらを組み合わせた系で、Cat.から染料への変換により広い領域の照射可視光が有効に利用されていることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究計画内容に関しては、研究によって次のような結果を得た。①酸化による損傷度が高い毛髪ほど、その後の光照射による劣化がより進行することがわかった。そのため、損傷度に応じた抑制法や毛髪処理条件の選択と制御が必要であり、まず毛髪損傷度評価法を確立する必要がある。②毛髪の損傷度は、毛髪をベルベリン処理し、その蛍光発光によって評価することが可能である。 さらに、2018年度の計画に入っていた可視光線を利用した新たな染毛法の開発のための研究を2017年度に前倒しで行なって、③(+)-カテキンを染料前駆体とし、ローズベンガルとメチレンブルーを光増感剤として処理した毛髪が光の照射によって着色される、という結果を得ていたため、さらにその着色性を向上させるための研究を行なった。その結果、④可視光領域の光増感剤としてローズベンガル・メチレンブルー・ビタミンB2を組み合わせた系で処理した毛髪で最も高い着色性が得られることがわかった。 また、本研究の成果を学会と論文で発表した。 したがって、以上より、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで本研究は概ね計画通りに進行している。そこでこれを踏まえて、今後、研究は次のように進める。 ①バイオリダクタントが毛髪の光劣化の抑制に有効である理由を解明するために、その化学的性質と抑制の有効な物質に共通の特性を調べる。 ②バイオリダクタントが毛髪の光劣化の抑制に有効な理由が光照射で発生する酸化剤のクエンチ効果に基づくとすれば、他の酸化による毛髪の損傷、例えば熱による劣化にもこれが有効である可能性があるので、その系での抑制効果を検討する。 ③毛髪の光染色法において着色性をさらに高める(処理時間の短縮・獲得色の濃色化等)条件を探査する。 ④光染色した毛髪の色の堅ろう性を評価する。 本研究においての毛髪劣化抑制と光染毛においての鍵となる重要な現象は還元と酸化である。そこで、毛髪・染料の生成・染色における、光が引き起こす酸化・還元反応についての考察をさらに進める。さらに、毛髪損傷度診断にも光が有効であることが解かって来たので、この分野における光の利用についてさらに可能性を探る。
|
Causes of Carryover |
2018年度は1,300,000円の直接経費予算に対して、研究活動によって支出した金額が1,299,949円となったため、差額が51円となった。翌年度分として請求した助成金は使用計画に基づいて支出する。本年度の残金51円は極めて少額で、翌年度の使用計画は当初通りである。
|