2017 Fiscal Year Research-status Report
介護事業所の地域ケア拠点機能による高齢者の地域居住に関する研究
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17K00789
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
立松 麻衣子 奈良教育大学, 家庭科教育講座, 教授 (60389244)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨永 美穂子 長崎県立大学, 看護栄養学部, 教授 (50304382)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 高齢者 / 地域居住 / 介護事業所 / 地域ケア拠点 / 健康介入 / ショートステイ / 二拠点居住 |
Outline of Annual Research Achievements |
介護事業所が高齢者の地域居住を支えるケア拠点機能を持つべきと考えている。平成29年度は、(1)元気高齢者、(2)在宅要介護高齢者、(3)施設高齢者、の地域居住を支える方策を探るために以下の取組を行った。 (1)元気高齢者に対して多職種多専門による介入を行った。具体的には、研究代表者(地域居住学)、共同研究者(食品学)のほかに、栄養教育学、調理学、運動生理学の専門家が協力をして、高齢者35名に対する「健康カフェ」を年8回開催し、食・運動介入を行った。特に、フレイルおよびサルコベニアの予防を目指して、食品企業の協力によってBCAA高配合食品の摂取を試み、参加者の6か月間の活動量、体組成、摂取食品を追跡し、さらに介入前後の健康意識の変化をみた。 (2)在宅要介護高齢者に対しては、特に、一人暮らしの要介護高齢者のショートステイ利用方法について施設調査によって把握した。現状としては、正月などの他の在宅サービスの提供が中断するときの利用が多いが、今までの研究から、単発的なショートステイ利用者に対する処遇は難しいことがわかっている。 (3)施設高齢者の居住性をあげる方策としては、「逆ショートステイ」の取組は高齢者の社会関係の維持と生活構造の複層化を起こすことがわかってきた。そのため、施設高齢者が施設外に居場所をもつ効果、つまり施設高齢者の「二拠点居住」の有効性を追跡している。 平成29年度は、元気高齢者への介入は寿命と健康寿命の差を小さくできる可能性が見えてきた。さらに調査・分析を重ねてスマートな介入内容・方法に焦点を当てていく。在宅要介護高齢者の地域居住については、ショートステイ利用者数および調査対象者枠を増やした検討が必要である。施設高齢者の地域居住については、介護従事者不足が「逆ショートステイ」の実施・継続を阻むことも生じており方法の変更も視野に入れて進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)元気高齢者への健康・運動介入を「健康カフェ」年8回の開催という形式で行い、6か月間の追跡によって介入効果を把握した。また、企業との協力体制を築くことができた。さらに、介入調査を行った地域の坂が多いまちという特性から、活動量計では把握できない調査対象者の運動量の多さを予測するに至った。したがって、平成30年度は、自治体との共同も視野に入れて、地域特性を生かした健康介入を検討していく。 (2)在宅要介護高齢者を対象としたショートステイのあり方については、特に、一人暮らしの要介護高齢者に絞って実態把握を開始した。現状としては、一人暮らしの要介護高齢者が少なく、そのなかでも、ショートステイを利用している人はさらに少ない。利用形態としては単発的な利用に留まっており、利用者とスタッフの関係性をベースにしたケアの提供になっていない。しかし、今後の高齢者数および単身者数の増加を見据えると、一人暮らしの要介護高齢者を支えるショートステイのあり方を追究していく必要があり、調査対象者の枠を拡大して、在宅生活の継続に資するサービスのあり方を検討していく。 (3)施設高齢者については、自宅に一時帰宅をしたり、家族と友人と外食や買い物をしたり、馴染みの場所に行ったりすることを繰り返すと、施設生活が活性化されるケースが多い。施設高齢者は施設外でも社会関係を持つことによって生活構造が複層化し、そのことが施設の居住性を向上させる。この構造は、地域包括ケア時代における施設ケアのあり方を指し示すものであり、平成30年度は二拠点居住の効果をさらに分析していく。一方で、介護スタッフ数の減少は本取組を阻む原因にもなり、施設高齢者の生活の質の逆戻りが懸念される。 以上、平成29年度は計画通りに遂行し、さらに発展的な課題が見えてきたことから、「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
地域のケア拠点によって高齢者の地域居住を支える循環は、「ケアを軸とした地域づくり」につながるだろうことを視野に入れながら研究を進めていく。介護事業所が地域の元気高齢者の未病を支えることは、介護事業所が介護保険サービスの対象ではない者をサポートすることであり、一見、将来のサービス利用者を減らすことである。しかし、このことは、介護事業所自らが「施設の壁」を取り払うことになり、地域住民にとって介護事業所が身近で気軽に行き来できる存在になる。そうなれば、介護事業所にとってはボランティア人材やアルバイト人材の獲得、そしてケアスタッフの労働環境の改善につながる可能性が高い。ケアスタッフの労働環境改善は、平成29年度調査からは、入所者の社会関係の維持をケアとして実施しやすい環境づくりになることが示唆された。同時に、地域住民が施設に行き来しやすいことは、入所者への訪問者の増加も意味し、施設に入所しても両者のつながりを維持することを可能にする。高齢者が社会関係を維持できることは、生活構造を複層化させて居住性をあげることも今までの調査研究で明らかにしてきた。 自宅および施設で暮らす要介護高齢者の地域居住を支えるということは、従来のケアに加えて、地域において社会関係を維持することをケアの一環として行うことと考える。そこには、要介護高齢者と家族介護者の関係性を支えることも含まれる。また、元気高齢者の地域居住を支えるということは、直接的には健康介入や健康意識への働きかけであり、間接的には就労や社会的活動の創出ではないだろうか。元気高齢者は行動変容を起こせるサポートがあれば自律できる。平成30年度はこれらの知見を念頭に置きつつ、持続可能でかつ汎用性のある地域ケア拠点の可能性を探っていきたい。
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