2019 Fiscal Year Research-status Report
障害者の修正衣服ガイドライン作成に向けた更衣と座位姿勢に適したズボンの製作と評価
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17K00794
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
雙田 珠己 日本女子大学, 家政学部, 研究員 (00457582)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
角田 千枝 相模女子大学, 学芸学部, 准教授 (50712337)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 運動機能障害 / 座位姿勢 / CADパターン / 着脱動作 / 生理的負担 / 修正衣服 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019(令和元)年度は、「修正効果の数値化と多角的評価および評価基準の検討」を目的とし、被験者7名を対象とした着用テスト終了後、チーム(被験者および家族・介助者、作業・理学療法士、CAD専門家、被服学専門家)で意見交換を行い、次の3点を評価した。なお、本年予定していた新規被験者の追加募集は、障害者スポーツ団体の協力を得て実施したが、該当者は得られなかった。 ①座位・立位姿勢でのシルエットの評価:被服学専門家は、姿勢別に前・後中心線上、左・右脇線上で、着装時の被験者のウエストからズボンのWLまでの長さを計測した。それに基づき、前股ぐり線の短縮量、後ろ股ぐり線の延長量、胴囲と腰囲のゆとり量、クロッチラインのフィット性を評価した。なお、①の結果については、2019年に家政学会第71回大会と繊維製品消費科学会国際シンポジウムで発表した。 ②着脱動作の評価と日常生活への適応性:医療専門家は7名について、動作時の可動域、上肢の筋力負担、緊張の有無、情動の変化を評価した。また、被服学専門家は、着脱時の所要時間、ズボンを上げる・下げる回数、心拍数、血圧、加速度の計測結果に基づき修正効果を評価した。次に、被験者および家族・介助者は、日常生活で3か月間着用テストを実施し、排泄時の着脱性、日常動作での着心地、立位・座位での外観に関する11項目について5段階評価をした(1か月に1回、3か月間実施)。被服学専門家は、ヒアリング調査を通して、生活場面での問題を収集した。 ③着脱動作が身体的負担におよぼす影響:障害のレベルが同じ程度の被験者3名を選出して着脱時の筋活動量と重心軌跡を計測し、被験者の着脱動作の特徴と修正効果を数値的に確認した。 ②と③の結果については、2020年家政学会第72回大会で発表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
①座位・立位姿勢でのシルエットの評価: 学会発表までは予定通り実施できたが、論文発表に至っていない。現在、論文の準備を進めている。 ②着脱動作の評価と日常生活への適応性:①で行った外観評価に基づき試験着を補正し、着脱動作の評価に用いる試験着を新しく製作した。試験着の製作遅れのため、着脱動作の計測開始が遅くなり、2018年12月から2019年2月までに順次計測を行った。80歳以上の高齢障害者が多く、風邪や神経痛などで体調を崩す被験者が多かったため、計測期間は想定以上の日数を要した。なお、着脱動作の計測後に行う日常生活での適応性の調査は、遅れを調整するため4か月の期間を3か月に短縮し、2019年1月から2019年4月末まで実施した。 ③着脱動作が身体的負担におよぼす影響:2019年5月以降、着脱時の筋電図と重心軌跡の計測を行った。1名の実験は大学で行ったが、2名の被験者は遠方のため、被験者らが利用している運動施設のスペースを借用して実施した。そのため、日程調整などでやや計画に遅れが生じた。 本研究のテーマである「更衣と座位姿勢に適したズボンパターンの製作」は、やや遅れながらも、予定した全ての実験・調査を終え着脱性と外観の向上を確認した。しかし、もう一つの目的である「修正衣服のガイドライン作成」については、本研究から得られた新しい知見を基に、チームで検討を重ねている段階にあり遅れが生じている。既に課題として挙がっている試験着の伸縮性の問題、腰回りのゆとり量については、パターンの修正を行い確認する予定であったが、今年度中に取り組むことができなかった。研究期間が1年間延長されたので、これについては次年度も継続して取り組み目的を遂行したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で考案した「更衣と座位姿勢に適したズボンパターン」は、座位で過ごす時間が長い人に快適で、立位でもシルエットが大きく損なわれることはなく、排泄時のズボンの上げ下ろしがしやすい特徴をもつ。しかし、本研究は、被験者を「排泄時の着脱に困難を感じながら自立して操作を行う,脳卒中の後遺症で片まひのある高齢者」に設定したため、対象者以外の障害については着脱性の改善効果を確認していない。被験者数が少ないこと、症例が限られていることに限界はあるが、今後は以下の2点について検証を加え、片まひの人、上肢の筋力が弱い人の自立を助ける修正方法のガイドライン作成に取り組む。 ①被服素材の検討:考案したズボンパターンは、標準体型の人を対象とした着装実験では、立位と座位とも概ね良好な外観評価を得られたが、腰回りのだぶつきに課題が残った。また、今回の実験では股ぐり線の長さを検討するため、伸縮性のない素材で試験着を製作したが、被験者の多くは、伸縮性が大きく掴みやすい生地を希望した。伸縮率の大きい生地を用いることは、座位腰囲の長さを抑えることができ、腰囲のだぶつきを減らすことにつながると考えられた。今後は、伸縮率の異なる素材を用いてズボンパターンの修正方法を検討し、再度着装状態を確認する。 ②紙おむつ着用者の計測方法の検討:今回の着装評価では、紙おむつ着用者の股上の長さが課題として残った。これは、紙おむつ着用者の股下の長さを計測することが困難であったことに起因する。そこで、紙おむつの収尿量と股下丈の変化量を確認し、股下丈の計測方法を再考する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下の2点である。一つは、予定していた新規被験者3名を獲得できなかったため、実験に関わる謝金、試験着製作費用が不使用となったことである。他の一つは、全体の計画の遅れによって試験着の素材とゆとり量の検討が進まず、パターン修正ができなかったため、修正モデルの試験着製作ができなかったことである。 2020年度は1年間の期間延長のため、新たな助成金は付与されない。現在までに全ての実験を終了し学会報告も行っているため、2020年度は被験者の募集は行わず、素材の変更に伴うパターンの修正を中心に、計画に沿って修正方法の確認作業を進めていく。なお、修正パターンについては、再度着用テストを実施し効果を検証する予定である。助成金の計画的使用に努めたい。
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